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NHK・東大の包括連携の不思議?公共放送は全ての大学に公平中立を貫いて 

  NHKが東京大学と包括連携協定を締結しました。互いの人材や保有するデータなどを利用して、日本や世界が直面する地球温暖化問題、防災や減災、さらに教育研究の振興などについて共同で取り組むそうです。NHKのアーカイブス、東京大学が保有する歴史的資料使い、日本の近代・現代の歴史を検証するほか、気候変動や食糧問題など地球規模の課題に挑み、未来へ提言するそうです。「なるほど」。すぐに納得してしまいそうでしたが「ちょっと待った」と言いたい。

NHKは受信料を財源、資源は国民にあまねく公開

 まずNHKは公共放送です。NHKが保有する資産は国民にあまねく公開され、利用されるのが当然です。2010年からアーカイブス100万本は公募方式で研究者らが利用できる道を開いていますが、東大が包括連携協定を利用して他の大学や研究機関、国民に比べて優先的に人材やアーカイブスなどのデータを活用するとしたら、不平等になりませんか。

 しかも、NHKは東大との連携をきっかけに共同研究などの成果を番組化し、テレビやラジオなど積極的に放送するはずです。日本の歴史や気候変動などのテーマを東大の研究成果に基づいて提言する番組を制作するほか、VR技術やビッグデータなどを使った斬新なコンテンツなどを想定しているようです。番組のタイトルにはNHK・東大が前面に出るわけですから、まるで東大のPRに繋がりませんか。確かに東大は優秀な学生が集まりますが、優れた研究成果は大学の名前と無関係です。ノーベル賞を受賞した大学出身者をみれば、東大が頭抜けた存在ではないことがすぐに理解できます。

 しかも、番組制作の基本は、優れた知見を持つ専門家の助言を受けながらコンテンツの質を高めることです。高い評価を受ける研究者は、東大以外にたくさんいます。例えば北海道大学を見ても、最近テレビコンテンツとして高い視聴率を集める「熊」や「恐竜」は世界でもトップレベルの研究者が揃っています。

 包括連携の下で番組制作となれば、東大に対し他の大学などに比べて一段上の評価と権威を与え、東大が最も優れた大学というイメージを視聴者に与えます。大学は昔と違い、独立行政法人のように国立大学法人として積極的に対外的に評価を訴え、企業などとの連携が必須になっています。東大の立場から見れば、確実に大学のイメージアップになります。企業PRを避けるため、原則企業名を隠すNHKの方針と矛盾しませんか。

東大偏重は他の大学との優劣を強調

 連携するタイミングについても首を捻ります。NHKは次のように説明しています。

 2025年に前身の社団法人東京放送局によるラジオ放送が開始されてから100年の節目を迎える一方、東大は27年に創立150周年を迎える。「このタイミングで、双方のノウハウを生かし、社会的課題の解決と教育研究の振興に貢献する狙い。未来に向けて連携・協力を進めていく」と説明しますが、誰もがなるほどと頷くタイミングでしょうか。この程度の節目感なら、東大以外の大学とも連携を広げていくのでしょう。東大はまず第一弾?というか、包括連携の必要性があるのか疑問です。

基本使命は公平・公正 公共の福祉、文化の向上

 繰り返しになりますが、NHKは、国民から受信料を徴収してテレビやラジオ、出版など幅広い事業を展開する公共放送です。放送法の裏付けを基にテレビを保有していれば受信料を支払うよう事実上義務付けられています。NHKのホームページには、「受信料は、NHKが事業を行っていくため、テレビをお持ちの皆さまに公平にご負担いただく、公的負担金なのです」と明記しています。

 基本的使命についても、「公平・公正な立場で放送の自主性を保ちながら、テレビやラジオの放送を通じて国民の生命・財産を守り、公共の福祉、文化の向上に貢献すること。その使命を果たすためには、政府や企業などの特定のスポンサーに頼ることのない『財政の自立』が必要です」と説明します。登場する「公平・公正・公共」は絶対に守ってください。

  NHKは東大との包括連携協定について稲葉延雄会長のコメントを公開しています。

公共的な存在という共通点を有する東京大学とNHKが包括連携協定を結ぶことで、協力関係をいっそう強化することと致しました。複雑化し、不確実性が増す現代社会だからこそ、何が本当に正しいのかを判断するための「コアになる知識」が求められていると感じています。東京大学とNHKが相互に連携・協力することで、人類が直面する地球規模の課題解決や日本社会のさらなる発展に貢献できるものと確信しています。

民放・新聞の影響力が衰えているからこそ

 なぜ東大なのか、やはりわかりません。より良いコンテンツは、優れた叡智を取材で集め、その叡智をわかりやすく説明する制作能力から生まれます。NHKのスタッフが全国の大学研究者らを取材しながら、人類や日本が直面する課題解決に向けたコンテンツを制作するのが本筋です。

 テレビ、新聞などメディアの足元は揺らいでいます。テレビ離れ、広告離れが進み、「第三の権力」と呼ばれた影響力は失われ、経営基盤も衰弱しています。NHKは民放に比べて安定した財源を背景に放送コンテンツ、ネットを拡充し、発信しています。ネット時代にメディアの役割が問われ、新聞・テレビのメディアとしての役割が弱体化している今こそ、NHKが率先して日本のすべての知的資源を利用して、放送内容をさらに底上げし、より中立性を貫く姿勢を示して欲しいです。

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