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不適切会計のニデック、病巣は沈黙、創業者のブラック体質はみんな知っていた 

 ニデック(旧・日本電産)の創業者、永守重信氏が利益至上主義の弊害に気づき、企業風土を変革するチャンスが何度かありました。

残業ゼロを掲げ、テレビCMを開始

 2016年、永守氏は経営理念を180度転換することを決断します。「目標を達成するまで働く」が常識だった企業風土を2020年までに残業をゼロにする。しかも、「もしこの世に、日本電産がなかったら」をテーマにテレビCMを大量に流し始めたのです。これまで新聞も含めて広告は一切出さず、インタンビューに答えるニュースが新聞掲載、あるいはテレビ放送されれば「お金を出さずに会社をPRできる。無駄な金は使わない」と公言していた永守氏が前言を翻したのです。

 きっかけは人材採用に向けた知名度向上。毎年300〜400人を採用していましたが、売上高2兆円をめざす2020年までに1000人へ増やす必要がありました。広告宣伝費は2020年までに300億円を投じるというのですから、びっくりしました。

 なにしろ、年間1万件の稟議を決裁して200億円を経費節約していた永守氏です。「広告を出すぐらいならば生産設備の1つでも買った方が良いと思っていた」が、2030年に売上高10兆円を達成するためにも「会社の変化点に来たから」と働き方改革やブランド戦略の転換について説明するのです。多くの人は、日本電産は「人に優しい会社」に変わったと信じたかもしれません。

 当時、失礼ながらテレビCMを見て大笑いした記憶があります。残業ゼロを謳い、若い世代にアピールする永守氏なんて想像もしませんでしたし、仕事と利益を最優先する日本電産の実情とあまりにもかけ離れていたからです。事実、CMを流した後でも、伝わってくるのは「日本電産の企業風土は何も変わっていない」という話ばかりでした。

虚像と実像がかけ離れる

 好感度を高める広告戦略は続きました。今度は「ニデックってなんなのさ」。若い世代から高い人気を集める俳優の川口春奈さんがニデックの事業内容を紹介しながら、企業の魅力を語ります。ニデックは東証を代表する優良株式銘柄としての評価は定まっていましたから、企業イメージはきっと上昇し続けていたでしょう。

 しかし、虚像と実像がどんどんかけ離れていきます。思わず本音と素顔が明らかになるニュースが続きました。例えば、経営の根幹に関わる社長人事。永守氏は2010年代に入って自身の後継社長選びを始め、社外から優秀な人材をスカウトし続けます。あれだけ社員に絶対的な忠誠心を求めたにもかかわらず、日本電産を創業した永守重信自身を超える人物は、大企業で鍛え上げられた経営者しかないと信じ込んだかのようでした。

 2014年、シャープの元社長の片山幹雄氏を口説き、副会長に据えます。2018年には日産自動車出身の吉本浩之氏を社長に指名しました。2年後にはクビ。後任の社長として同じ日産出身の関潤氏をスカウトします。でも、やはり関氏も2年後にクビ。

 後任に生え抜きで子飼いの小部博志氏を社長に据えましたが、2年間限定。2024年からソニー出身の岸田光哉氏が引き継いでいます。後継社長が自身の経営理念を継承できるか試し続けていました。

 社長をクビにする理由はいつも同じ。「目標とする収益に届いていない」「株価が上昇していない」。テレビCMが伝えるニデックはあくまでも虚像。対外的に「良い会社」を演じても、経営の内実は創業以来続く永守神話を支える「高成長、高収益、高株価」、いわゆる3Kの継承と実践を求めます。

 ニデックが2026年1月28日に東証へ提出した改善計画によると、不適切会計の原因は「過度な株価至上主義」と説明しています。創業者の永守重信氏が経営の全権を握り、利益目標など細部にわたって決定、実践を徹底する企業風土を改めて明らかにしています。目標を達成したかどうかの目安は株価上昇。その弊害が数字の辻褄わせに直結したのです。

「一日の会議のうちの最後の回は深夜に設定され、目標達成の目途(めど)を立てることができるまで厳しく対策の立案を求められる」。株価を重視するあまり、社内の利益目標がトップダウンで設定され、達成困難なものだったという実態も明らかになっています。

 ニデックの経営幹部、社員からみれば、改めて創業者の横暴ぶりを指摘されても「何をいまさら」という気分でしょう。誰もが知っている事実です。たとえ創業時は慧眼の持ち主であっても、企業の成長とともに組織運営、つまり経営を変えなければ創業者の威光を背にした独裁者にすぎません。

ニデック版「王様の耳はロバの耳」

 昭和の時代でさえ、「社員100人、売上高100億円を超えたら、経営者は発想を改めるべき」と言われていました。2兆円を超える企業に成長したにもかかわらず、永守氏は社員に実践だけを求め、発言を求めない経営手法を貫きました。不適切会計を招いた病巣は、あれだけ優秀な人材を集めながらも、沈黙を求める企業風土にあったとしか思えません。

 改めて「王様の耳はロバの耳」の寓話の怖さを思い知ります。

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