
ニデックの不適切会計 最高益と株価に固執する拡大戦略が裏目に、自らの神話も崩す
ニデックが不適切な会計処理で窮地に立っています。創業者・永守重信氏が築き上げた高収益と高株価の神話が揺らいでいる今、会計処理問題はかなりの打撃。常に高収益と高株価の実現に迫る経営戦略は高く評価されてきましたが、経営陣が関与している可能性も指摘されています。万が一にも陰で不適切会計が助けていたとしたら、永守神話は蜃気楼に。
経営陣が関与した可能性も
ニデックが9月3日、本体およびグループ会社で不適切な会計処理の可能性を発表しました。本社やグループ会社の経営陣が不適切な処理に関わったと解釈できる資料もあるそうです。外部の弁護士らで構成する第三者委員会を設置し、事実関係を詳しく調査しています。
不適切会計が発覚したのは7月。子会社のニデックテクノモータが本社の監査等委員会に対し中国子会社に不適切会計の疑いがあると報告しました。内容は2024年9月、取引先からの値引きに相当する購買一時金(約2億円)を適切に処理しなかった可能性がありました。
ニデックは監査等委員会と共に調べたところ、ニデック本体、グループ会社でも不適切な会計処理の疑いが浮上。経営陣が関与した、あるいは認識したうえでリスク資産の評価減の時期を恣意的に検討していると解釈できる資料も複数見つかったそうです。
そもそもは、イタリアの子会社で貿易取引上の問題が明らかになり、2025年6月に有価証券報告書の提出を延期したことがきっかけです。ニデックがグループ企業で会計処理で問題がないかを調査するなかで中国子会社の事案が発見されました。今後の調査結果を待たなければいけませんが、不適切な会計処理の根は予想以上に深く広いかもしれません。
不適切会計を一言で例えれば、利益操作。実際よりも決算書に掲載される数字を大きく見せる、あるいは小さく見せることになります。
戦略ミスが続く
最近、足元がフラフラするニデックを見ていて心配でした。経営の全権を握る創業者の永守さんが最優先する経営目標は最高益の達成と株価上昇。ニデックに限らずニトリなど強烈な個性を発する創業者のみなさんは常に最高益の継続と株価の右肩上がりを注視し、株主らにアピールします。爆発的な成長力を多くの投資家に注目してもらい、企業価値を高め、事業の成長力に弾みをつけるの思惑があります。
ただ、ニデックの場合、裏目に出る事例が相次いでいます。わかりやすい事例は後継者育成でしょうか。社外から辣腕と呼ばれた経営者を社長に据えますが、いずれも数年でクビに。例えば2021年6月には日産自動車の社長候補と目された関潤氏をCEO(最高経営責任者)に起用しましたが、1年足らずでCOO(最高執行責任者)へ降格。過去最高の業績を上げたにもかかわらず、「ニデックの株価水準に満足できない」を理由に永守さんは事実上のクビを宣言します。
電気自動車(EV)の基幹部品「E-Axle」も忘れるわけにはいきません。創業以来、パソコンなどの小型モーターで飛躍してきましたが、続く主力製品としてEVの駆動系を担う電動アクスルに注力しました。とりわけ世界最大のEV市場であり、EVメーカーが雨後の筍のように誕生する中国で大躍進し、新たな収益源に育て上げる戦略です。中国に続き欧米も攻め込み、E-Axleの目標は2030年度で1000万台。目標を高く掲げ、それに向かって多少強引と批判されても達成するのが永守流であり、実現するのがニデック神話。
拡大から利益重視へ軌道修正する最中
しかし、2年前の2023年10月、永守会長は電動アクスルの事業について「今期に黒字を見込んでいたが、年間で150億円の赤字が出る」との見通しを明らかにします。すでに23年度3月期で300億円の営業赤字を計上しており、黒字転換は至上命題でした。電動アクスルの販売台数見通しも期初の94万台超を54万台へ下方修正し、さらに35万台に引き下げます。ニデックの持ち味は経営の拡大均衡であり、縮小均衡は恥。中国市場の激しい価格競争に巻き込まれ、量的拡大よりも利益重視へ転換せざるを得なくなりました。
次に打って出たのが工作機械メーカーのM&A。そのシンボルとして牧野フライス製作所を「合意なき買収」で挑みましたが、こちらも失敗。いつもなら前面に出る永守さんは舞台裏に回り、担当役員が会見に出席。牧野フライスの買収失敗後、その担当役員は退社しました。
主力事業の小型モーターに新規事業を加えて成長路線を駆け上がるはずだったニデックの経営戦略の歯車は明らかに狂い始めています。
経営の軌道修正を余儀なくされた最中に浮上したのが不適切な会計処理問題。予期したのか、永守さんは8月に入って、中期経営目標と掲げてきた「2030年度に売上高10兆円」を撤回すると表明しました。強引とも思える経営拡大が相次いで裏目に出ており、一度立ち止まって足元を見つめ直す時期と自覚したのでしょう。ニデック、グループ各社が負った傷はどのようなものか。まもなく明らかになるはずです。
◆ 写真はE~Axle ニデックのHPから引用しました。