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セブンイレブン、消滅寸前のヨーカ堂の背中を追い始めた 次代を創るパラノイア経営を忘れる

 コンビニエンスストア「セブンイレブン」の売り上げが振いません。「あのセブンが・・・」と驚きたいところですが、残念ながら「だろうなあ」というのが本音です。根拠はイトーヨーカ堂の惨状を見てください。店舗運営が日に日に悪化しています。「総合スーパーとコンビニは業態が違うのではないか?」と首を振るかもしれませんが、今のセブン&アイの実力ではお荷物になってしまったヨーカ堂すら建て直すことができないのです。小売業の次代を創り続けたセブンイレブン。ひょっとしたら、ヨーカ堂とともに時代から取り残されて始めているのかもしれません

既存店の売り上げが下回る

 セブン&アイ・ホールディングスの2025年2月第1四半期(2024年3ー5月期)にはがっかりしました。売上高は前年同期比3・2%増の2兆7347億と伸びを確保したものの、営業利益は27%減の593億円と大幅に低下。収益を稼ぎ続けてきた主力のコンビニ事業が日本、米国ともに不振に陥ったのです。

 国内の売上高を見ると、前年同期で横ばい。通期では2・5%増を目指していますから、初っ端の第1四半期から足踏み状態に。内実は目を覆うばかり。既存店の売上高が月別で前年実績を下回っています。業界全体が不振に直面しているのなら納得できますが、ライバルのファミリーマート、ローソンは前年同月実績を上回っています。セブンイレブンの不振だけが目につきます。

 一人負けの背景には日米で同時進行するインフレがあります。セブンイレブンの強さは買いたい商品が常にあり、その品質は他のコンビニよりも優れていることにあります。プライベートブランド「セブンプレミアム」が好例です。その強みがゆえに価格はちょっと割高。それが高収益の源泉になっていました。ところが、賃上げが消費者物価に追いつかず実質賃金が低下している現状では、店舗への客足が鈍るのも当然です。

低価格戦略は自らの強みを台無し

 店舗の売り上げは7月以降も低迷しており、セブン&アイは挽回策として「うれしい値!」というキャッチフレーズで低価格戦略を打ち出しました。短期的な打開策としては客足の回復につながるでしょうが、セブンイレブンが低価格で競ったら、自らの強さは台無しになってしまいます。

 セブンイレブンの創業者である鈴木敏文さんは、商品棚を徹底した数値管理で充実し、店舗の収益力と顧客吸引力を維持してきました。商品納入の厳格な時間管理、商品の入れ替え、独自商品の開発など、いずれも妥協を許さない姿勢は多くの批判を浴びましたが、セブンイレブンの高収益の前では全て沈黙するしかありませんでした。

 鈴木敏文さんは創業者の伊藤雅俊氏に代わる実力者としてセブン&アイを総合スーパーからコンビニを主軸とする企業グループに転進させましたが、長年の独裁的な経営が災いを招き、2016年4月に会長の座から放逐されます。現在は井阪隆一社長が経営の実権を握ります。セブン&アイは経営の世代交代が始まったと捉えることもできますが、結果はグループ事業の新陳代謝が止まってしまいました。言い換えれば自己革新する力を失ってしまいました。

ヨーカ堂を建て直す方策が見つからない

 その好例がヨーカー堂。総合スーパーは終焉の時代に入っているとはいえ、多くの店舗は売り上げ回復の打開策どころか、どう改革して良いのか戸惑っている様子です。祖業の衣料売り場には無印良品が入店するなど品揃えに自信の無さを感じていましたが、案の定撤退に。食品売り場のレイアウトはお客の目線や動線よりも、店員が商品の配置しやすい流れを重視しているようです。レジ周辺はいつも混乱。支払いは現金、電子マネー・クレジット、セルフレジを選べるレイアウトですが、まだ慣れていないお客が多く、無駄な時間を費やしています。本音はヨーカ堂を切り捨ててしまいたいのでしょう。現在は地方から閉店を重ねており、きっと東京など大都市圏でも閉鎖が始まるはずです。

 セブンイレブンの不振も同じ延長線にあると考えています。「デフレからインフレに変わったから、販売戦略が空回りする」。日本を代表する小売りグループがこんな説明をしたら、「素人」と笑われます。小売業が毎日、考えることは価格設定。安売りすればお客が増えますが、儲かりません。といって高めに設定すれば客が減る。

 セブンイレブンの成功は、小売業の宿命といえる価格競争に疲弊する前に「買いたい時に店が空いている便利性」「欲しい物が常にある商品力」に集中したことです。「うれしい値!」の低価格戦略は、これまでのセブンイレブンの強さを自ら否定するかのように映ります。裏返せば、低価格以外に反転攻勢に出るアイデアが湧いてこないのでしょう。

偏執狂の不在が時代の変化を見失う

 米国半導体メーカー、インテルの最高経営者(CEO)、アンドリュー・グローブは1996年、「パラノイアだけが生き残る」を出版し、自らの経営哲学を披露しました。彼は、目の前の成功に甘んじることなく、経営環境が大きく変わる瞬間を見落とすなと強調しています。1980年代に日本の半導体メーカーがインテルなど米メーカーを追い抜き、世界シェアの過半を握った瞬間を例にあげ、インテルが世界で初めて製品化したDRAMから撤退し、パソコンの頭脳ともいえるCPU(マイクロプロセッサー、中央演算処理装置)へ注力します。この決断を下した力を「パラノイア」と表現しました。

 セブン&アイを振り返れば、アンドリュー・グローブは鈴木敏文さんだったのかもしれません。総合スーパーの将来を見極め、コンビニに注力します。小売業の時代変化を常に注視し、批判などを気にせずコンビニのビジネスモデルの変革に突っ走ります。その姿はパラノイア、言い換えれば偏執狂と勘違いされるほどで、だからこそ自ら育てた部下に放逐されたのかもしれません。

 偶然ですが、インテルも経営不振に直面しています。セブン&アイ同様、パラノイア、偏執狂的な経営者が不在だったのでしょう。

 奇しくもセブン&アイは北米などでコンビニを展開するカナダのアリマンタシォン・クシュタールから買収提案を受けています。買収の行方は皆目見当もつきませんが、セブンイレブンを時代の寵児に戻す経営者が再び現れるのでしょうか。ヨーカ堂よりも、セブンイレブンの将来が心配になってきました。

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