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資生堂を2期連続赤字の奈落に突き落とした「プロの経営者」とは

 資生堂が窮地に追い込まれています、2024年12月期、25年12月期と2期連続の最終赤字を計上。とりわけ25年12月期の赤字幅は2001年3月期以来過去最大の520億円に。再び人員削減や施設閉鎖などの構造改革を加速して生き残りをかけますが、資生堂の経営をそれなりに知っているだけに、「話が違うんじゃない」と思わず心の声が叫びます。

魚谷氏は2014年からトップに

 この10年間、資生堂は経営改革に挑んでいたはずでした。2014年に「プロの経営者」魚谷雅彦氏を社長に据え、老舗化粧品メーカーの硬い殻を捨てる覚悟でした。資生堂の社長は創業家出身の福原義春氏以降、秘書出身者が就任するなど内向き経営で滞った時期がありましたから、外部からスカウトした魚谷氏の起用は思い切った抜擢です。優れた製品と強いブランドを持つ資生堂が世界的な化粧品メーカーへ突っ走ると期待するのは当然です。

 魚谷氏は事業の主軸を高価格帯の化粧品に移して積極的に海外展開。2019年12月期は売上高と営業利益がともに過去最高。営業利益率も10%。目論見通り、高収益企業へ復活しました。

 ところが、二の矢が的を大きく外れます。2021年7月、ヘアケア製品「TSUBAKI」やメンズ化粧品「uno」など日用品のヒットブランドを投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズに1600億円で売却したのです。収益率の低い日用品を切り離し、コア事業を高価格帯製品に集中する目論見でした。

選択と集中が失敗

 事業の選択と集中は、経営戦略の勝利の方程式です。追い風は吹いていました。高価格帯の化粧品は中国観光客など海外で人気が高く、いわゆる国内外で「爆買い」されていたのです。プロの経営者である魚谷社長は自身の経営判断に狂いはないと確信していたでしょう。

 ところが、追い風は一転、大逆風に。コロナ禍が世界中を覆い、「爆買い」を織り込んでいた中国の購買層は国内景気の低迷で縮小。収益率が低いとはいえ、資生堂の強い足腰を支えていたのは日用品でしたから、頼りの日用品を失った資生堂が足元から崩れ落ちるのは目に見えていました。

 結局、魚谷社長は資生堂を負のスパイラルに追いやり、今も抜け出せません。それでも魚谷氏は2025年3月に取締役を退任するまで資生堂の経営を指揮しました。

カルロス・ゴーンは国外逃亡

「プロの経営者」と呼ばれる人たちがいます。欧米では経営不振の大企業を渡り歩き、息を吹き返す大胆な経営改革を断行し、自身の評価をさらに高め、新たな企業経営者に転出するのです。事業再生を意味する「Turnaround」を担うので、「ターンアランド・マネジャー」とも呼ばれます。

 日本の産業界でみれば、経営破綻寸前の日産自動車をV字回復させた仏ルノー出身のカルロス・ゴーンをイメージしてください。2000年代に入って日本でも「プロの経営者」が頻繁に登場します。日用品のジョンソン・アンド・ジョンソン社長を経てカルビー食品社長に就任した松本晃氏、アップル日本法人、日本マクドナルド、ベネッセコーポレーションなどで社長を経験した原田泳幸氏らの名がすぐに思いつくはずです。直近では魚谷雅彦氏、新浪剛史氏らでしょうか。

 「プロの経営者」の称号を冠しているとはいえ、輝かしい成果を残し、有終の美を飾ることは容易でありません。経営手腕が優秀でも、経営環境や企業の浮き沈みに巻き込まれ、思ったような成果を出せず挫折する時もあります。

 身の丈を超えた権力に酔い、映画やドラマのような結末を迎えたのがカルロス・ゴーン。2019年に特別背任罪などで日産を退き、法的責任を逃れるために国外逃亡しました。

新浪氏は違法疑いのサプリメント

 新浪氏も自ら墓穴を掘る結末に。三菱商事入社後、ローソン社長で実績を上げ、2014年にサントリーにスカウトされて社長就任。創業家以外の社長としてサントリーを国際飲料メーカーへの脱皮を指揮し、経済同友会の代表幹事にも就任。経済界のリーダーとして注目を浴びる存在に。ところが2025年4月、創業家への大政奉還を成し遂げて会長に就任した直後、違法の疑いがあるサプリメント購入を巡る騒動をきっかけにわずか5ヶ月後に会長、代表幹事の職を失う羽目に。

 魚谷氏の場合は、日本コカ・コーラなど多くの会社で経営陣に参画して輝かしいキャリアを積み重ねていました。「爽健美茶」などをヒットさせ、卓越したマーケティングは高く評価され、資生堂社長の起用に値する実績は残していました。残念ながら、資生堂を再生する慧眼を持っていなかっただけです。

売却した「TSUBAKI」は400億円の価値増

 2026年2月、皮肉なニュースが流れます。魚谷社長が2019年に投資ファンドに売却した「TSUBAKI」などの事業が、米投資ファンドのベインキャピタルによって2000億円規模で買収されることが決まりました。6年前の売却額が1600億円ですから、400億円の価値が上積みされています。皮肉にもプロの経営者が不要と判断した事業が6年後に400億円の価値を生み、必要と残した事業が2期連続の最終赤字に陥る。とても笑えません。

 「プロの経営者」ってどんな存在なのでしょうか。たとえ再生に失敗しても、プロの経営者は高額な年収を手にします。苦笑しながら会社を離れても、残された従業員にはリストラが待っています。どうも納得できません。

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