
豊田自動織機を非公開化 創業家の聖域と求心力を死守するもトヨタの未来は萎縮
トヨタ自動車が祖業の豊田自動織機を非公開化するかもしれません。トヨタグループは株式を主要系列企業で分散、持ち合いを築いていますが、海外の投資ファンドはトヨタグループの資本効率の低下を招いていると批判、見直しを迫っています。豊田自動織機は創業者・豊田佐吉から血脈を継承する中枢であり、存在は聖域。豊田章男トヨタ会長は豊田自動織機の非公開化してでも聖域を死守し、創業家の求心力を堅持する考えなのでしょう。世界一の自動車メーカー、トヨタにとって吉と出るか凶と出るか。未来を左右する経営判断です。
トヨタの有力グループの株式を保有
豊田自動織機の株式非公開化は、トヨタや豊田章男会長ら創業家、トヨタグループ会社が出資して株式の公開買い付け(TOB)を行う案が浮上しているそうです。豊田織機の大株主はトヨタが24・20%、デンソーが6・78%、トヨタ不動産が5・32%、豊田通商が4・99%、アイシンが2・15%とトヨタグループだけで43・44%にのぼります。他の大株主は、銀行・保険で17・12%ですから、トヨタがTOBを決定すれば実行できる可能性はかなり高いでしょう。
豊田自動織機のTOBはかなりの資金規模になります。株価はすでにTOBを期待した買い注文で大幅に上昇しているので、必要な資金総額は5兆~6兆円を超えるかもしれません。日本最大のTOBといわれた創業家によるセブン&アイ・ホールディングスのTOBが8兆円超ですから、豊田自動織機の規模がわかります。
豊田自動織機は1926年、豊田佐吉氏が創業しました。長男の喜一郎氏が自動車部門を立ち上げ、1937年にトヨタ自動車工業を設立しました。その後のトヨタの歴史を語る必要はないと思いますが、自動車の開発・生産を支えるトヨタ系列部品メーカーとして日本電装(デンソー)、アイシン精機などを輩出し、トヨタ系列が集中する愛知県刈谷市周辺は日本の製造業を支える産業集積を形成しています。
創業家を象徴する聖域
そのトヨタグループの中でも、豊田自動織機は別格です。カーエアコンやフォークリフトなど幅広い製品・部品を生産しており、フォークリフトは世界一のシェアを握っています。申し分ない優良企業ですが、事業内容よりも豊田自動織機の最も重要な役割は喜一郎氏から連綿と続く豊田家の精神的支柱です。トヨタ自動車の社長には佐吉氏の甥、豊田英二氏、喜一郎氏の直系である章一郎、達郎、章男3氏が就任していますが、豊田自動織機も豊田家出身者が歴代担ってきました。
保有株式をみてください。トヨタ株式の9・07%、豊田通商の11・18%、デンソーの5・41%、アイシンの2・97%、トヨタ紡織の4・34%、愛知鉄鋼の6・89%などトヨタ系列の有力企業の名が連なります。トヨタ株だけで自社の時価総額の7割にも相当するそうですから、豊田自動織機の財政基盤はトヨタグループの資産によって出来上がった結晶のようなものです。
豊田家にとって表の顔と裏の顔を使い分ける重宝な会社でもありました。豊田家を知るトヨタ幹部があるエピソードを明かしてくれました。「自動織機は豊田家のお財布。表沙汰にできない資金や使途は、自動織機から出ていた。生産効率を考えたら、生産する必要がない部品をわざと扱うなど資金を滞留させていた」。もう昔話だと思いますが、株式上場を止め、非公開化を選択する発想を考える際、豊田自動織機の目に見えない陰を見逃すわけにはいきません。
トヨタグループでは日野自動車、ダイハツ工業に続き、豊田自動織機でもエンジンの不正認証事件が発生しました。日野自動車は三菱ふそうトラック・バスとの経営統合に追いやられ、豊田トヨタ会長からダイハツは厳しいお仕置きを受けました。豊田自動織機も厳しい視線を浴びましたが、この会社が経営危機に向かうことは絶対に起こらないでしょうし、なるわけがありません。答えは簡単。聖域ですから。
グループ運営が見えにくくなる
海外の投資ファンドからトヨタグループの経営風土を問われ、資本効率など経営指標の視点から改革を求める声が広がっています。豊田自動織機は子会社のアイチコーポレーションの持ち株比率を引き下げたほか、株主還元にも力を入れています。株価重視、取締役会のメンバー見直しなども課題と指摘されています。
資本の論理から見れば、正論です。しかし、創業家の豊田会長の眼には豊田自動織機だけは手を突っ込まれたくないと映っているのではないでしょうか。豊田自動織機が株式非公開となれば、トヨタグループを運営する中枢はこれまで以上に見えなくなります。豊田家の求心力がますます強まり、グループ企業の経営を締め付けるでしょう。それはトヨタの未来を狭め、萎縮する方向に働くはずです。