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スバル トヨタ系EV車体メーカーへハンドルを切る 水平対向の輝きは伝説に

 「トヨタさんとは腹を割って、ひざ詰めの議論ができる強固な関係になった。スバル社内はトヨタさんに信頼される仕事、リスペクトされる仕事をしようと一枚岩になっている」。

「トヨタさんに信頼される仕事」

 このコメントを読んだ時、直感しました。スバルとトヨタ自動車の関係が大きく変わる。発言の主は今年2023年3月3日、スバル次期社長に内定した大崎篤取締役専務執行役員。6月末に社長就任しました。スバルはトヨタから20%の資本出資を引き受け、電気自動車(EV)の開発で関係を強化しています。2022年5月にはスバルにもトヨタにも初めてとなるEV「スバルソルテラ・トヨタbZ4X」を発売しました。

 出資比率20%は確かにトヨタグループの一員を意味しますが、まだ経営の独立性は保持しています。だからこそ、社長内定の記者会見で「トヨタさんに信頼される、リスペクトされる」という言葉を聞くとは思いませんでした。本人は率直な思いを吐露したのでしょうが、スバルがトヨタ子会社として軍門に下ったと国内外に表明したものです。当然、その伏線として何かが起こるはずと誰もが予想します。

EV戦略は一転、大胆な目標に

 それから5ヶ月後の8月2日、スバルは大胆なEV戦略を発表しました。2027年にも米国でEVの生産を開始するほか、2030年には目標とする世界販売120万台以上のうち、50%の60万台をEVが占める目標です。これまで公表していたEV戦略を大幅に書き直す格好です。5月の決算説明会では2028年以降に国内のEVの年産能力を年間40万台に設定する一方、世界販売台数の70%近くを占める米国でのEV生産は白紙でした。そもそもハイブリッド車も加えた電動化比率は40%以上が目標でした。

 スバルが一転、米国でのEV生産へ急ハンドルを切らざるをえない状況はわかります。米国やカリフォルニア州などでEV比率を高める規制が相次いで決まったほか、北米でEVを最終生産すれば大幅な税額控除を受けられる優遇制度が決まっています。米国市場で稼ぎまくるスバルです。米国の市場に合わせて戦略転換するのは当たり前です。ただ、この状況は以前からわかっていました。やはり、今回の戦略転換に唐突感を覚えます。

計画の実現に疑問符

 率直に入って、計画の実現性に疑問符が付きます。5月の決算説明会で当時の大崎専務はEVの生産については、すでに発表している日本国内の新工場で経験を積み、米国現地生産は白紙の状態と説明しています。しかも、スバルが市場に投入しているEVはまだ1車種。トヨタ自動車と共同開発したソルテラだけ。

 なによりもスバルのEVは、自社ブランドのアイデンティティであり、高い人気を支える象徴である水平対向エンジンを捨てて、一からクルマを造り始めるのです。唯一のEVであるソルテラは、トヨタがほとんど開発して元町工場で生産しています。EVの心臓部である電池もトヨタに頼っており、今年7月にようやくパナソニックと電池供給について協議を始めました。電気系統のノウハウや駆動系も含めてトヨタに依存しているスバルが、果たして独力でイチから開発、生産できるでしょうか。

 ソルテラを見てください。昨年2022年5月に発売して1ヶ月も経ないでリコール。その主因がタイヤのボルトの強度不足。自動車設計の基礎中の基礎ですが、EVの走行時に必要な耐久度を予測できなかった設計ミスです。その後もリコールが相次ぎ、トヨタのEV開発・生産はまだ始まったばかりのレベルであることが知られてしまいました。トヨタでさえ、まだEVに関してはよちよち歩きです。トヨタにお任せ状態だったスバルがEVを独自開発するなんて想像できません。

トヨタに依存せざるを得ないスバル

 スバルは2030年までに電動化関連に1・5兆円を投じる計画です。自動車の開発は10年単位の期間が必要です。8月に公表したEV戦略を短期間で実行するためには、トヨタに全面的に頼らざるを得ません。その結果はどうなるのか。スバルは事実上、トヨタの技術に依存する車体メーカーになってしまうのです。

 トヨタも望んでいるはずです。トヨタのEV戦略を見ていると、猛烈なスピードで増産体制を構築する必要があります。既存の工場の改造では間に合わないでしょう。スバルが日本国内で計画するEVの新工場を取り込むとともに、米国での現地生産も新たに加えてようやく間に合うのかと推察します。トヨタとスバルはすでに「bZ4X・ソルテラ」で同一車種を生産する実績を持っています。米国で同じ車種をそれぞれのブランドで発売すれば、EVの生産・販売計画に向けて帳尻が合います。トヨタにとっても、スバルの大胆なEV戦略への転換は願ったり叶ったりと受け止めているでしょう。

EVは伝統のブランドを吹き消す

 車体メーカーの道を歩むなら、「トヨタからリスペクトされる仕事」という言葉が出てくるのは当然です。スバルの強いブランドを支えた水平対向エンジン、4WDが消えるわけではありません。しかし、EVの潮流に押し流され、トヨタ系のEV車体メーカーとして存続するしかない。これがEV時代の怖さです。伝統のブランドは跡形もなく吹き消します。それは、スバルだけの運命ではありません。

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