スズキ、ダイハツが軽商用EV 最強ライバルはもう過去、生き残りに向け一体化へ
スズキ、ダイハツ工業、トヨタ自動車が2023年5月、商用軽バンの電気自動車(EV)のプロトタイプを発表しました。24年春まで発売するそうです。開発はトヨタが主導してスズキ、ダイハツも参加したCJPTが担当し、生産はダイハツが担うようです。スズキとダイハツがEVなどを企画開発するCJPTに出資したのが2021年7月。軽シェアトップを争い続けてきた両社がEVで共同歩調を選んだことは、自動車の未来が大きく変貌する象徴の一つに過ぎません。いよいよ日本の自動車産業の風景は大きく変わり始めます。
スズキ、ダイハツの共同歩調は自動車変貌の象徴
軽商用車のEVは5月下旬に開催するG7広島サミットのイベントで披露されました。日本の自動車産業がカーボンニュートラルに取り組む姿勢をアピールするのが狙いです。現地に行けませんでしたので、展示したEVの写真はトヨタのホームページから引用しました。現車を触ってもいません。車名はわかりませんが、スズキは「エブリィ」、ダイハツは「ハイゼット」、トヨタは「ピクシス」が軸になるのでしょうか。いずれにしても、ダイハツが生産するのですから、スズキにはOEM(相手先ブランド)で供給することになります。
軽自動車のOEMはすでにスズキがマツダへ、ダイハツがトヨタとスバルへ、三菱自動車が日産自動車へそれぞれ供給しており、驚く話題ではありません。しかし、長年、一台単位で販売台数を積み増すシェア争いを演じてきたスズキがダイハツからOEM供給を受ける事実は、「100年に一度の変革期」を実感させる出来事です。
日本独特の規格が消える日も近い
軽自動車は日本独自の規格で仕上げられています。エンジンの排気量は660CC、車体の大きさにも制限が設けられ、その枠内で1000CC並みの小型車と競い合います。大きなハンディキャップを逆に励ましに変え、世界でも類を見ない小型車を産み続け、それが日本車の世界競争力に磨きをかけました。
それだけに軽商用EVの性能設計も実用性に特化しています。走行距離は1回の充電で200キロを見込んでいるそうです。宅配便などに使われるため、1日あたりの走行距離はほぼ予想がつきます。仮に100キロ程度と設定すれば、よっぽどの渋滞などに巻き込まれない限り業務を終えられます。充電も車庫に納車して一晩明ければ、フル充電の状態に。
価格も補助金などによる支援策を利用すれば、実質100万円台を載せられるようです。2022年、軽で大ヒットした日産の「サクラ」、三菱の「eKクロス」は、ユーザーの使い勝手の良さに配慮しながらも、予想以上に高い人気を集めた理由は価格の安さ。補助金を使って価格が200万円を切ったのが最大の魅力でした。
軽EVの加速は日本市場も変える
ホンダも2024年に軽商用EVを発売する予定です。軽市場を主導するスズキ、ダイハツが日産や三菱のヒットの背景を精査して本格参入すれば、軽のEV販売は予想以上に早く過熱し、その普及を加速するのは間違いないでしょう。
そして軽商用EVで手を組んだスズキとダイハツは、次どのように提携効果を深め、実利を上げていくのでしょうか。最大の難関は独占禁止法です。両社のシェア合計は60%を超えます。万が一、会社統合に向けて動き始めたら、公正取引委員会は黙っていないでしょう。一気にアクセルを踏むとは思えません。
まずは軽商用EVの販売を通じて新しい市場を開拓することに努力を払うでしょう。既存の軽市場を土俵にホンダや日産、三菱などと闘えば、単なるシェア争いを激化させているだけ。
日本の自動車市場はまだEVの普及率が数%。カーボンニュートララルを謳い文句に新車の品揃えをエンジン車からEVへ移行させ、普及率が高まれば、従来の軽と1000CC以上の普通車の2規格が併存していた日本独特の市場構造を大きく変える引き金になります。かつてトヨタが提唱した規格撤廃に大反対したスズキもあわてることはないでしょう。そうなれば規格の障壁を取り払う動きが始まります。
エンジン車かEVか。EV一辺倒だった欧州の自動車政策がエンジン車も認める方向へ修正されましたが、アジアも含めてEVの需要は高まるのは間違いありません。スズキとダイハツは海外市場で棲み分けしており、まともにシェアを食いあう国はありません。EVを切り口にスズキとダイハツは協業を深め、傍目が気づかないように軽自動車、小型車の戦略をともに描き直し、再構築するはずです。
静かにスズキとダイハツの棲み分け、一体化が進む
国内市場でスズキとダイハツが過当競争しなければ、軽はしっかり儲かる車です。なにしろ、新車販売の4割近くを占める時代です。スズキもダイハツも国内で消耗戦を排除できれば、新車開発、海外展開に向けてこれまで以上にエネルギーを注げます。
スズキとダイハツは事実上、一体化に向けて進むのは間違いないでしょう。ダイハツ はトヨタの完全子会社ですし、スズキも資本提携関係を築いています。これからのシナリオは舞台進行を握るトヨタの思惑次第。まあ、豊田章男会長なら、尊敬する鈴木修さんの思いを汲んだ進行を推し進めるはずです。
◆写真はトヨタのホームページから引用しました。