
タミヤ ③ 「縮尺35分の1」の世界標準を創り上げた日本企業
タミヤは日本企業の中でも数少ない偉業を果たしています。世界標準、製品のデファクトスタンダードを創り上げたのです。それは「縮尺35分の1」。世界の戦闘機や戦車などのプラモデルが縮尺35分の1に統一されているのは、タミヤの製品開発力、生産力が世界最強であることを証明しているのです。
1961年、当時の田宮模型が発売した戦車シリーズ「ドイツ・パンサータンク」。世界で初めての縮尺35分の1のプラモデルです。「単2乾電池2本が収まるサイズが35分の1だった」という理由で誕生した逸話がありますが、自宅の部屋に展示しても家族から邪魔モノ扱いされない大きさでありながら、実物を目の前にする存在感を醸し出すことに成功しました。その後、精密な金型加工が洗練され、ボルト一つ一つまで本物そっくりに再現。その高い品質でライバル他社に大きく差をつけました。
戦車シリーズは大ヒット。装甲車、大砲などを加えたミリタリーミニチュアシリーズは欧米で高い人気を集め、いつのまにか戦車などのプラモデルは縮尺35分の1が世界統一の尺度になってしまったのです。ちなみに私も戦車シリーズにハマり、かなり作りましたが、やはり「パンサー」が大好き。ソ連時代の戦車も独特の味がありますが、ドイツは「最強」がデザインとして表現されています。
縮尺35分の1で実物と遜色ないプロモデルを再現できたのは、金型技術の高さにありますが、実物をそのままコピー&ペーストしたかと勘違いするほどの取材努力を見逃すわけにはいきません。世界の軍事関係の博物館などで正確な寸法や設計図を確認する一方、「スパイを雇っているのではないか」といった憶測が流れるほど極秘の戦闘機が寸分違わずに再現されることもありました。
もちろん、世界には32分の1、30分の1などさまざまな縮尺でプラモデルが出回っていました。プラモデルに模する戦闘機や戦車を再現するには、いろんな尺度があって良いわけですから、そう簡単に「35分の1」に収斂するとは思いません。にもかかわらず、35分の1が世界標準に統一されたのは、タミヤの優れた製造業技術の高さが裏付けされていたからです。再現されたモデルの品質の高さ、製作する工程、完成後に展示する楽しさ。タミヤ製品を通じて体感できる醍醐味を満喫できました。
タミヤが世界に飛翔した時期は1960年代から始まり、1970年代には世界のタミヤとなっています。ちょうど日本の自動車や電機製品、カメラなど精密機器が世界中で輸出され、トップブランドとしての評価が確立されていた頃と重なります。
しかし、自社製品を世界標準にまで育て上げ、今も維持する日本企業はそう多くありません。日本は自動車、電機、機械など製造業を基幹産業に経済成長し続け、ソニーやホンダなど世界で大人気を集めるブランドも輩出しています。例えば、ソニーはトランジスタラジオ、ビデオカメラ、ウオークマンなどで世界の企業が競って真似る世界標準となりましたが、ウオクークマンはアップルのiPhoneなどに飲み込まれてしまい、ソニーの手元に残るのは・・・。
世界一の自動車メーカーとなったトヨタはどうでしょうか。企業としての圧倒的な力を持っていますが、あえて世界標準と呼べるのはハイブリッド車「プリウス」ぐらい。カーボンニュートラルの次世代モビリティとして期待される水素を燃料とした燃料電池車で世界標準をめざしましたが、失敗しています。
実はプラモデルでは、戦艦や船舶などの縮尺700分の1も世界標準となっています。1971年に田宮模型、長谷川製作所など静岡県内に本社を置くメーカー4社が「ウォーターラインシリーズ」として製品化したプラモデルが布石となりました。
こうした世界標準を創造する経験があるからこそ、タミヤはラジコンやミニ四駆など世界的な製品を開発し、今でも世界トップクラスのプラモデルメーカーとして活躍しているのです。タミヤの成功はゲームソフトやゲーム機器などで日本発の世界標準化にも自信を与えたと考えています。
◆ 申し訳ないです。写真の戦車はパンサーではありません。