
テスラ蛇行、それでも未知を爆進する空恐ろしさ 失敗恐れずアクセルを踏む
米テスラが放つ爆進力に目を奪われます。イーロン・マスクCEOは自らを創業者と語りますが、実は技術者2人が創業したテスラに後から投資して経営の主導権を握っただけ。優れた技術者の現場感覚よりも、成功させるためには何をすれば良いのかに注目し、起業家として電気自動車(EV)の将来を見透し、突っ走る。必要な新技術は後から付け加えていけば良いと割り切っているようです。
失敗など気にしない
あえて例えれば、猪突猛進。途中の失敗など全く気にしない。むしろ、失敗は当然。次に成功すれば過去の失敗すべてチャラ。2003年の創業から現在に至るまでのテスラが繰り返した成功と失敗を冷静に眺めると、よく理解できます。
なにしろEVの事業化は大半の人が失敗すると予想していました。創業当初、トヨタ自動車が一時期支援しましたが、EVの将来性に期待したというよりは米国政府に自動車産業支援をアピールするのが目的。政治的な提携でした。
EVは予想通り、開発、生産、販売は右往左往します。ところが、地球温暖化問題が多くの予想を上回る勢いで後押ししました。エンジン車に変わる自動車を提供できるのは唯一テスラだけと勘違いされるほど。
EV事業が軌道に乗り始めたら、今度は自動運転にまっしぐら。ドライバーがハンドルを離しても安全に自動運転する「レベル4」を目標に掲げ続けます。運転中に事故や死傷者を出しても挫けません。日本なら絶対に通用しません。米国でも多くの批判を浴びながらも撤回する考えを微塵もみせません。
イーロン・マスクCEOは自身の経験と直感を信じ、成功するまでテスラはアクセルを踏み続けるのです。自信過剰と批判されようが、それが世界一の大富豪に駆け上がる原動力になったわけですから。誰も否定できません。
人工知能、ロボットも加速
人工知能も同じ。完全な自動運転に必須の人工知能を開発するため、資金を注ぎ続けます。人工知能ブームを引き起こしたオープンAIには創設時から携わりましたが、オープンAIの創業者の1人、サム・アルトマンとは意見対立で袂を分ち、自ら開発企業xAIを立ち上げ、アクセル全開。
テスラはEVの新たなDNAとして取り込みため、xAIに出資する方向です。文字通り、EVとAIの一体化。並行して人工知能を活用したヒト型ロボット「オプティマス」の開発にも着手し、EVとの相乗効果を狙います。ヒト型ロボットが人間を助け、共存できる社会を実現できれば、その技術やソフトは社会で最も身近な乗り物となるEVに応用できるからです。
映画「トランスファーマー」をご存知ですか。ヒト型ロボットの開発コードネームの「オプティマス」は映画「トランスフォーマー」のキャラクターが由来です。想像してください。人類とロボットが共に宇宙から押し寄せる外敵と闘う近未来社会で活躍するヒト型ロボット。EVは自動車というよりは、人間と伴走するモビリティにも変身できるロボットなのです。
もちろん、人工知能の開発でも失敗を重ねています。人工知能向け半導体でリーダーシップを握るエヌビディアに対抗するため、車載用の人工知能向け半導体を2019年から開発してきましたが、目処がつかず断念、学習向けに転用することが明らかになっています。
マスクの個性に左右されるが、それが強み
成功も失敗も元を辿ればイーロン・マスクCEO。強烈すぎる個性は会社の組織運営に収まらないのでしょう。テスラを本格生産した2010年以降、開発や生産の専門家が突然、退職します。テスラがEVに続くプロジェクトとして力を入れているヒト型ロボット「オプティマス」でもエンジニア責任者が姿を消しました。最新の技術を追求するテスラから優秀な技術者が抜け落ちたら、成功は確実に遠のきます。
過激な政治言動がテスラの販売にも悪影響を及ぼしています。2025年1月に復権したトランプ大統領を支援し、DOGE(政府効率化省)トップに就任しましたが、政府職員を容赦なく解雇。欧米で不買運動が広がっています。マスク氏は5月にトランプ政権から離れましたが、その後も販売は回復せず、2桁台で減少し続けています。かつて米EV市場シェアで80%超を握っていましたが、2025年8月で38%に低下。2017年10月以来約8年ぶりの低水準に沈んでいます。
テスラの将来は暗いのでしょうか。BYDなど中国勢が躍進し、競合他社の競合は激化。テスラの課題として新車開発の遅れ、トラック投入の失敗などが指摘されます。
でも、結局はテスラが世界のEVを主導するのではないでしょうか。イーロン・マスクCEOの個性に目を奪われてしまいますが、人工知能やロボットをDNAとして埋め込みながら進化するテスラの爆進力は空恐ろしい。欧米車の技術コピーに忙しい中国勢が体得できない強さです。
それしても日本車メーカーはどうするのでしょう。テスラの構想力とスピードについていけるのか。最後に笑う自信はあるのか。
◆ 写真はテスラのSNSから引用しました。