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「東芝の価値はこのままじゃゼロ」EGOとSCAREを実践する”ESG”を捨て「無」に

 東芝の株主総会が終わりました。2022年6月28日に開催した定時株主総会で13人の取締役選任案を可決しました。しかし、社外取締役の綿引万里子さん(弁護士)が大株主で「物(もの)言う株主」と呼ばれる外資系ファンド2人の取締役就任に反対し、株主総会後に辞任しました。「From to ZERO」のカテゴリー「ゼロマネジメント」は過去の成功に酔わず次代に向けて挑戦する経営を意味する造語として考えました。ところが、東芝は自ら企業価値ゼロに向かって突っ走っており、東芝から「企業価値ゼロの経営も考えろ」と叱咤された思いです。

「企業価値ゼロの経営」を考えろと叱咤されたよう

 株主総会では取締役数を8人から13人へ増員する会社提案を諮られました。東芝出身者は社長、副社長の2人だけ。残り11人は社外取締役で、そのうちの1人である米資産運用会社のファロン・キャピタル・マネージメント出身のレイモンド・レイジさんが指名委員長として人選したそうです。「物言う株主」という表現がちょっと理解不能なこともあって、誰が「物を言うのか」「物を言わないのか」がわからないのですが、せっかく物を言うなら冷静に考え「このままでは東芝の価値はゼロになりますよ」と誰かが取締役13人に教えて欲しいです。

 東芝はここ数年、経営の屋台骨が崩れる寸前に追い込まれています。これまでの経緯は何度も書いていますし、改めて振り返ると楽しさよりも物悲しさだけが蘇りますので、今回は見送ります。現在は確か東芝を企業価値を高めるため、今後の経営戦略案を外部から募集しており、上場廃止も含めた提案が10件集まっているようです。

 東芝の現在位置をちょっと冷静に距離を置いて鳥瞰してみてください。東芝は総合電機の名門として家電、半導体、医療機器など日常生活を助け、楽しくする製品を開発・生産する一方、電力発電施設、原子力、エレベーター、大型機械、車両、交通運転システムなど社会全体を支えるインフラを手掛けてきました。東芝の企業価値を株式市場で何兆円かどうか試算する前に「社会が必要とする企業の価値」は株式市場の評価より大きく上回っていたはずです。

 その東芝は自身の論功と名誉を高めることに溺れ、嫉妬に駆られた社長経験者らの愚行によって解体の道を走り始めました。世界世界でもトップの技術を誇る半導体、医療機器などを切り離して延命しながら、身を切り刻んで海外の投資ファンドから倒産回避に必要なつなぎ資金を集めます。物言う株主の存在は、一連の過程の結果なんでしょうけれど、東芝の未来は見えてきたのでしょうか。企業評価の軸としてESG(環境、社会、企業統治)を重要視されていますが、東芝のESGは自身の利益を追求するEGO、従業員や取引先など東芝の利害関係者に恐怖を与えるSCAREの2つを冠にした企業統治を実践しているかのようです。 

 東芝の再建案は上場廃止のほか、官民ファンドの産業革新投資機構による再建なども含まれていますが、産業革新投資機構の過去の実績を考慮すれば本当に東芝を経営再建できる能力があるのかどうか疑問です。

前社長の報酬は五億円超、従業員の賃上げは2・5%、

 「綱川前社長 5億円超」。株主総会の結果を伝える記事のすぐ横に前社長の綱川智氏が2021年度に役員報酬として五億円を超える金額になるという記事を見つけました。綱川前社長のほか、島田太郎社長は2億円弱。東芝の株価上昇の影響で金額が膨らんだとはいえ、前年は1億円未満でした。5倍増です。この期間、東芝の七転八倒を見ていると、役員報酬はふさわしい金額なのでしょうか。

 ちなみに2022年春闘での東芝の賃上げは2・5%程度です。従業員は5倍増から程遠い賃上げに我慢しています。どうみても東芝の現在を支えているのは経営者でも投資ファンドでもない。従業員の努力です。

 社長は何をやってきたのでしょうか。経営再建案を外部の募集に頼り、株主総会は海外投資ファンドに振り回され、社長職は短期間に就任と退任を繰り返します。社長が東芝の未来を託された経営責任を果たしたと断言できる人は何人いるのか。

イサム・ノグチの「無」の彫像から学ぶこと

 東芝本社のある東京・芝浦に近い慶應義塾大学の三田校舎にイサム・ノグチの彫刻「無」があります。第二次大戦後、空襲で甚大な被害を受けた大学に再び福澤諭吉の精神を次代に継承する象徴の一つとしてイサム・ノグチに依頼し、「若い人」「学生」と並ぶ3作品として制作されました。

 東芝の時価総額は3兆円を下回るそうです。上場を維持するのか、廃止するのか。今回の株主総会で決定した社外取締役らが中心になって企業価値を高める経営再建策をまとめるはずです。それは株式市場での計算。東芝本来の価値はもうゼロなってしまうのでしょうか。経営者のみなさんは一度、創業時の「無」に立ち返って、東芝はなぜ存在するのか、経営を存続しなければいけないのかを従業員や会社の近所の人と話し合い、考えて欲しいです。企業にとって社会に存続、尊敬されて創出される価値を軽視してよいわけがありません。価値がゼロとなるのか、無限となるのか。東芝の未来を築く「若い人」や「学生」、あるいは消費者や取引先、いろんな人と話してみてください。投資ファンド以外にも人間はいます。

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