自壊するトヨタグループ 日野、ダイハツ、デンソー 生き残るのはトヨタだけか!?
求心力が遠心力に変わる瞬間を見ている思いです。トヨタ自動車グループです。物理学では求心力と遠心力は均衡するはずですが、人間が経営する企業グループには当てはまりません。無理矢理に権力を握ろうとすると、周囲には社長の指示に対し「イエス」としか答えない幹部や社員が集まり、求心力が遠心力を上回ります。しかし、行き過ぎた権力はもともと理屈に合わない求心力で維持しているわけですから、ちょっとした破綻で遠心力が上回り、バラバラへ。トヨタグループは自壊し始めているのでしょうか。
デンソーは世界で1245万台のリコール
あのデンソーで何が起こっているのか。デンソーが製造した燃料ポンプのリコールの広がりには驚きました。作動が不良となり、エンジン停止の恐れがあるとして、2020年3月にトヨタ自動車がリコールを届けてから、ホンダ、ダイハツ工業、マツダ、スズキ、スバルと広がり、対象車種は382万台を超えています。走行中にエンジン不良が発生し、停車した車両が事故に巻き込まれ、死傷者も出ています。
2023年12月13日、デンソーは燃料ポンプ約380万台分のリコールについて声明を発表。不具合の原因は、燃料ポンプを構成する部品の羽根車が燃料によって変形し、不良を引き起こしたと説明し、迅速にリコールするとしています。死傷者が出た重大な事故についても「事故で亡くなられた被害者の方およびご遺族に深い哀悼の意を表します。また、負傷された被害者の方およびご家族に心よりお見舞い申し上げます」と陳謝しています。
ただ、380万台はあくまでも日本国内だけ。世界で販売している車種を含めれば、約1245万台に膨らみます。2020年1月に米国でトヨタがリコールを公表して以来、4年近くも時間が経過しているにもかかわらず、リコール数が増え続けるのはかなり異常事態です。
世界企業がなぜ躓くのか
デンソーはドイツのロバート・ボッシュに次ぐ世界第2位の自動車部品メーカーです。技術力は半導体はじめ電装品を中心にトップクラスの評価を集める日本を代表するメーカーです。しかも、リコールの対象になった燃料ポンプは電子制御で燃費を効率化する重要な部品で、エンジン性能の中枢を占めます。高い技術力に長年の経験が加わり、デンソー製品の中でも最も信頼されなければいけない部品でした。研究開発、生産の歯車がどこか狂い始めているでしょうか。
奇しくもちょうど一年前、デンソーは公正取引委員会に警告されています。公取委は2022年12月末、下請け企業とコスト上昇について交渉しなかった13の企業・団体を公表しました。独占禁止法の「優越的地位の乱用」に該当する恐れがあり、違反を認定しているわけではないものの、下請け企業が求めなくても取引上優位な発注企業が主導して中小企業の経営を改善させるのが狙いと説明しています。トヨタグループの中ではデンソーと豊田自動織機の2社が含まれました。
トヨタは4兆円超の営業利益を上げるが
トヨタ自動車は2024年3月期で営業利益が4兆5000億円に達する見通しです。前年同期比65%増と当初予想の3兆円を軽く飛び越える増益を見込んでいます。新車の世界販売が過去最高を記録する勢い、想定を上回る円安などがその主因ですが、その利益を産む源泉はトヨタグループです。世界で販売するのはトヨタでも、利益を生み出す優れた部品や車両を生産するのは系列と呼ばれるグループ企業です。しかし、トヨタグループはすでにかなり傷んでおり、世界最高の企業集団とは思えません。
日野自動車は2022年3月に発覚したエンジン認証の不正事案の影響を受けて赤字経営に陥り、2024年3月期も連結最終損益で220億円の赤字と4期連続最終赤字を見込んでいます。2024年末をめどに三菱ふそうトラック・バスと経営統合し、事実上トヨタグループを離れ、栄光の歴史が消え去るのでしょう。
ダイハツの不正は2014年から増加
ダイハツ工業でも2023年4月に車両の安全性に関する衝突試験に不正が発覚。12月20日に国土交通省に調査結果を報告した奥平総一郎社長は再発防止の体制を整えるまで全車種の販売を停止する方針を明らかにしました。国交省の判断次第では販売停止期間が長期化し、トヨタの完全子会社とはいえ存続が危ぶまれるかもしれません。
2023年に入ってからは豊田自動織機、愛知製鋼で検査データの差し替えなどの不正も明らかになっています。豊田自動織機はトヨタ発祥の地で、22年12月にはデンソーと枕を並べて公取委から警告を受けています。
日野自動車やダイハツの記者会見では不正の主因として新車開発とコスト低減に対する過度な圧力が指摘されています。新車開発は多数の技術者らが連携するため、現場が勝手に不正を働くわけがありませんし、隠し通せるものでもありません。ダイハツの不正も内部告発が発端です。経営のトップから強い指示があるからこそ不正が行われるのです。それはデンソーなど自動車部品メーカーでも同じです。
2009年6月からトヨタグループを率いた豊田章男社長(2023年4月会長就任)は、奥田碩氏ら創業家以外の経営トップが敷いた経営路線を否定し、豊田家を前面に出して新たなトヨタグループを形成してきました。世界一の自動車メーカーの座も獲得し、4兆円を超える営業利益も計上する巨大企業に変貌しました。
グループの舵取りに支障はないか
しかし、どこかでボタンのかけ違いが起こっているのではありませんか。自らを新たな求心力の中核と位置付けたものの、歪みが起こっているのはないでしょうか。日野自動車もダイハツもデンソーも日本の産業史を語るうえで必ず登場する会社です。不正は絶対に許されませんが、なぜ不正や深刻なリコールが相次ぐのか。ダイハツの不正は最も古い事例は1989年からですが、2014年から数が増えています。不正しなければいけない何かが背中を押したことがわかります。
トヨタグループはこのまま離散していくのでしょうか。