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トヨタ株主訴訟と兵庫県公益通報、豊田会長と斎藤知事が責任の所在に戸惑う姿に惑う

 トヨタ自動車の豊田章男会長と兵庫県の斎藤元彦知事がダブって映ってしまいます。互いに日本を揺るがす問題の根源となった人物です。ところが本人の心象は「どうして自分が問われるのか?」「なぜ日本中から問われているか?」。戸惑っている様子も同じ。お二人を遠めで眺めるこちらは、もっと戸惑っています。

子会社の責任を負わないのか

 2024年末、トヨタの株主2人が提訴した株主訴訟が名古屋地裁で始まりました。ダイハツ工業による国の認証取得の不正問題で、親会社のトヨタに880億円の損害が生じたと主張。豊田章男会長や当時の役員など5人がリスクに対応する内部システムを機能させなかったとして、この5人に55億円を会社に賠償するよう求めています。NHKによると、12月26日に記者会見した原告は「会社の体質をよくしたいという思いから訴訟に踏み切った」と話しています。富田智和弁護士は「子会社が別法人だという建て前に寄りかかって何ら責任を問わないのはよくないと考える」と訴訟の主旨を説明します。

 提訴の背景にはトヨタ系列の相次ぐ不正があります。なかでもダイハツが2023年4月、海外向け4車種の衝突試験による不正を発表。原因究明のために設置した第三者委員会は、トヨタなど他社ブランドを含め174件の不正があったと認定した。立ち入り検査を実施した国土交通省はさらに14件の不正を確認し、是正命令を出したほどでした。

 豊田会長の不正認証については「From to ZERO」で何度書いている通り、親会社が子会社の経営に責任を負う姿勢が欠けています。株主訴訟が開始されても驚きはありません。経営者の失格を問われても仕方がないでしょう。その豊田会長となぜ兵庫県の斎藤知事と重なるのか。自身の権力の大きさとその権力に相応しい言動、2人とも自覚できていないからです。

兵庫県知事は、公益通報の意味が理解できない?

 偶然にも株主訴訟の前日、12月25日には兵庫県議会の調査特別委員会、いわゆる100条委員会が開かれ、元県民局長からの疑惑告発文書問題に関して斎藤知事の最終尋問がありました。斎藤氏の主張は過去の尋問通り、変わりはありません。告発文書について「実名も書かれ、誹謗(ひぼう)中傷が高く、真実相当性がない。適切に対応した」と自らの解釈を説明します。質疑応答は休憩を挟んで2時間半に及びましたが、オウム返しのように同じ説明が繰り返されました。質問する委員が失笑した場面もあったそうです。

 「公益通報とは何か」を理解しようとしない、あるいはできないのかもしれません。100条委員会に参考人として出席した結城大輔弁護士は「公益通報に真実相当性は必要がない」と斎藤知事の解釈の誤りを指摘しました。県が告発文書を作成した元幹部を公益通報の保護対象とせず、懲戒処分にしたことも「仮に公益通報に該当しなくても、一般的な企業や組織の対応をしている感覚では、通報に不利益な取り扱いをしないことは組織のルールで対応している。配慮しながら進めていくのが実務的な感覚だ」と解説します。

 この問題は2024年3月、斎藤知事が民間人から文書を作成した元県民局長の男性が知事のパワハラなどを訴える告発文書を入手。男性は後に公益通報したが、斎藤知事はその審議を待たずに懲戒処分としました。男性は7月に死亡。知事の対応を巡って月の県議会は全会一致の不信任決議し、知事職を失職しましたが、11月の出直し選で再選されています。

知事は職員の意見、親会社は子会社の声を聴くはず

 知事は現場を知る県職員の意見に耳を傾ける。地方行政を取材した経験から言えば、当たり前の行為です。ところが異議を唱えた職員を自らを貶める行為と即断し、調査、弁明を認めない。本来すべき行為をせずに組織の最高権力者が公益通報ではないと判断したら、制度そのものは無効、存在しないのと同じです。

 その姿勢はトヨタの豊田章男会長にもみられます。親会社は子会社の面倒を見る。至極当たり前のことがトヨタ自動車グループで実践できない。「上場企業」「日本を代表する企業」「製造業最大の企業」「世界1位の自動車メーカー」・・・。トヨタの凄さを表す形容詞は数えきれませんが、親会社のトヨタは完全子会社のダイハツを支援せず、不正行為を非難するだけ。「悪い子はいねがあ〜」と大晦日に練り歩く秋田のナマハゲの愛情がないのでしょうね。

 その冷酷さを思い知らされたのは、不正発覚後に初めて登場した豊田会長の衣装でしょうか。1年前の2023年12月22日、タイで開催された10時間耐久レースの予選終了後、トヨタ主催のモータースポーツイベントでドライバー「モリゾウ」として走った後です。その姿はレース用のワンピースを着たまま。現地で開催した記者会見ではレースの内容の後、ダイハツ工業の不正試験について記者から質問がありました。ダイハツの不正認証は「次いで」のテーマでした。

豊田会長はワンピース姿でダイハツ不正を語る

タイ現地で取材した記事を参考に紹介します。文中はメディア「Car watch」からの引用です。

ダイハツのクルマに乗ってる方に多くのご心配をおかけし、日本の自動車会社を代表して、ご心配をおかけして申し訳ないと、まず申し上げたい。(中略)やってしまったことは取り返せませんが、今後ダイハツは1日も早く信頼を回復できるよう、親会社のトヨタとしても全面協力で立ち直らせる努力してまいりますので、一度動向を見守っていただきたいと思います。

この6カ月間は第三者委員会の調査もあり、いろいろ動きづらい点もあったと思います。第三者委員会の結果も出ましたので、ダイハツがその結果を精査する手助けをしながら、なんとか前を向いて自立できるように応援をしていきたいと思うので、一度お時間をいただけないでしょうか。トップが何かを発言しただけで、何十年も続いた会社のカルチャーを変えることはなかなか難しいと思います。それでも、もっと多くの人がその商品を信じ、安心快適に移動をしたいという信頼取り戻すためには時間がかかると思いますけど、滞りなくやること、支援することをこの場でお誓い申し上げたい。

 記者会見の質疑応答をどう受け止めかは人それぞれです。40年以上も企業トップの記者会見を取材した経験から見ると、冷静にダイハツの現況を眺め、対応策を解説しています。残念ながら、唯一欠けているのは、完全子会社ダイハツの親会社としての姿勢です。他人の会社のような距離感、冷たさを覚えます。豊田会長が最も嫌悪する「一言一句」を捉えて再度眺めると、「トヨタは親会社ですよね」と改めて問いかけたくなるフレーズはこれでしょうか。

なんとか前を向いて自立できるように応援をしていきたいと思うので、一度お時間をいただけないでしょうか。トップが何かを発言しただけで、何十年も続いた会社のカルチャーを変えることはなかなか難しいと思います。

 会社勤めした人ならすぐに理解できると思いますが、親会社と子会社の関係は「なんとか前を向いて自立できるように応援していきたい」という関係ではありません。親会社は子会社の経営の詳細をチェックし、一挙手一投足まで口やかましく言ってくるのが常識です。上場会社なら連結決算の数字に直撃しますから、事細かに口出してくるのが通例です。通常は新しいことをやろうとすると、親会社からやめろと言われるのが筋です。

「トップの発言だけで変わらない」を信じる人はいない

 まして「トヨタの創業の精神」を2009年の社長就任以来、説き続けてきた豊田会長です。前任の奥田碩さんら非創業家出身が敷いた経営路線を否定し、子会社、グループ会社のトップ人事に自身が信頼できる人物を送り込んできた経緯があります。「トップが発言しただけで」を「親会社が指示しても改善できなかった」と理解するわけありません。

 その強権を最も発揮したのがダイハツであり、すでに不正認証が発覚していた日野自動車でした。いずれもトヨタ系列の意識が薄く、トヨタの求心力よりも遠心力が強いグループ会社でした。リコールの異常大量発生に直面したデンソーもそうです。ダイハツの不正問題を調査した第三者委員会は2014年以降から不正認証試験の事案が増えたと報告していますが、明らかに豊田社長は親会社として影響力を持ち、行使していた時です。「トップが何か発言しただけで・・・」という言葉を素直に受け止めるトヨタグループの従業員はいないでしょう。

 トヨタ株主訴訟、兵庫県の公益通報対応は、日本が抱える問題の一端を示しているに過ぎません。

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