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サスペンション部品のヨロズ 鉄鋼でアルミに勝つ EV時代もハイテンション

 電気自動車(EV )の時代が到来すると、ガソリン車を頂点とした部品メーカーの産業ピラミッドは壊滅し、日本経済は混乱に陥る。先行きを不安視する声は絶えません。だからこそ自動車工業会の会長を務めるトヨタ自動車の豊田章男会長は自動車関連の雇用550万人を守るため、欧米で広がるEV転換政策を拙速と批判しています。

 果たして、部品メーカーは世間が思うほど脆弱なのでしょうか。産業ピラミッドは崩壊します。しかし、かならず自社の研究開発力で目の前の壁を突破する会社がいます。

部品メーカーはEVの波にのれるか

 そう確信できたのは、サスペンション部品メーカーのヨロズが披露した技術展示を見た時でした。10月末から開催したジャパン・モビリティショーではトヨタや日産自動車、ホンダ、マツダなどがEVやスペシャルティーカーを展示し、多くの関心を集めました。ただ、個人的には自動車部品に注目しました。新聞記者現役の頃、自動車産業を取材していると、自動車の未来を決めるのは部品メーカーであることに気づいたからです。今回のショーでも、出展する部品メーカーのEV時代に向けた技術や意気込みを取材しました。

 「目からウロコ」こんな言葉を思い出させてくれたのがヨロズでした。かつては日産系列でしたが、今ではトヨタも含め世界自動車メーカーと取引しています。展示する部品・技術は様々でしたが、最も驚いたのがEVの部品として鋼板を使い、軽量化と加工精度、そしてCO2を抑制するカーボンニュートラルの3点の実現を目指していることでした。

EV時代の到来を待ち構える

EVはエンジン、鉄を引き摺り下ろすのか

 EVの生産は内燃機関エンジンを主役の座から引き摺り下ろすと同様に、使用素材についても鉄からアルミニウムへの移行を加速させています。EVの技術開発をリードする米テスラが「ギガプレス」と呼ぶ一体成形加工がその典型例でしょう。比重が鉄の3分の1であるアルミを使って軽量化すると共に、加工工程を削減して生産コストを低下させるのが狙いです。EVはバッテリーが重いため、車体重量をできるだけ減らす必要があるほか、エンジン車に比べ割高な価格を抑えなければいけないからです。

 ところが、ヨロズはこれまで通り鋼鉄を選択し続けるというのです。アルミに比べて曲げなどの成形加工に優れ、高い精度も実現できるためです。ハイテンションと呼ばれる高張力鋼飯を使い、設計数値に寸分狂いのないサスペンションなどの部品を加工すれば、アルミの優位性を凌駕できると考えています。アルミは比重が軽いものの、鉄に比べ粘度が劣るため、設計通りに加工するためには余分な厚みなどが求められます。ヨロズは自社の高いプレス成形技術を活用すれば、鉄でも十分にアルミを上回る軽量化が達成できると確信しています。

ハイテンションで技術革新

 しかも、鋼鉄製部品の生産工程全体で省エネなどを徹底すればCO2の排出量を抑えることができます。ヨロズは技術展示のパネルで、写真を添えて従来に比べてCO2を15キロ削減でき、重量も2%軽減できると説明しています。

鉄は加工精度や軽量化で優位になる時も

 鉄鋼素材を供給する日本製鉄やJFEスチールも、鉄のアルミに対する優位に自信を深めているようです。テスラが初めてギガプレスを採用したEV「モデルY」を分解して部品を点検したところ、アルミの板厚は増え、部品当たりの重量は増えているとしています。溶解しているアルミを鋳型に流し込むと、厚さの違いで冷える速度が違い、十分な厚みが無いとヒビが入る恐れがあるそうです。設計数値を達成するため、余裕を持ってアルミ量を使用するので、ギガプレスで生産工程を削減できても、結局は重量の軽減効果は大きくないと判断しています。

 EVの開発・生産は、従来のエンジン車と違う次元で進むと考えています。しかし、ピストンから電気モーターに代わったとしても、構成部品に求められる精度と安全性は変わりません。ヨロズが得意とするサスペンションなどEVの骨格を支える部品も求められるレベルはどんどん高まるでしょう。

EVの壁を越えた部品メーカーは飛翔へ

 むしろ、電気を扱う部品が増える結果、エンジン車では想定されない安全基準と精度が新たな目標になります。EVメーカーが求める部品を正確に、しかも安定して供給できるメーカーは、これまで以上に高い設計・生産能力が求められます。これから始まる自動車産業の崩壊は、全てがゼロになるわけではなく、むしろ高い技術力を持っているかどうか、あるいは進化する能力があるかどうかが試されるわけです。その壁を乗り越えた部品メーカーだけがより飛翔できることを約束されているのでしょう。

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