65歳から始めたサイト制作「途中でやめる」は「途中でやめられない」三軒茶屋で知る
「いつやめて良いと公言していたら、むしろやめられなくなりますよ」。「目から鱗の名言」に出会いました。場所は東京・三軒茶屋。初めてお会いした人からグサリと刺さる、そして強い信念を感じる言葉でした。
コロナ禍以来、会っていなかった友人と飲むため、25年ぶりに三軒茶屋を訪ねました。若者や海外観光客に人気の渋谷からそう遠くはないのですが、違った空気が漂っていましたが、1世代30年と考えれば25年前に訪れた街も世代交代しているはず。散策することにしました。躊躇なく街のシンボルといわれたキャロットタワーへ。
このビルは基本、オフィスビル。1階が東急世田谷線の駅構内と一体化しているので、右に左に行き合う人の流れを見ながら2階へ。エスカレーターで昇るとすぐに「ユニクロ」の赤いロゴが見えます。。「ユニクロはオフィスビルの2階でも入居するの?」とちょっとだけ驚いたら、よくみると「ユニクロ」「UNIQLO」とは書いていません。同じ赤地に白抜きの文字で「山下陽光」「YAMAHIKA」と描かれているじゃありませんか。「やられたなあ〜」と笑い、怖いもの見たさも手伝ってエスカレーターを降りた勢いに背中を押され、そのまま「YMAHIKA」に入店。
店内に一歩入ると、まるでフリーマーケットのよう。勝手に思い込んだ「ユニクロ」の残影があるので、予想していた風景とあまりに違い、目線がうろうろ彷徨います。数多くの衣料が陳列されていますが、床にも多くの衣料や布が置かれていました。男性2人が床に座っており、縫い物しています。こちらをチラリと見た後、すぐに目線を戻して縫い物を続けます。ここは工房なのか?
床にある衣料を素材に手直しをしているのか、あるいは新しいデザインに繕い直しいているのか。衣料を販売しているお店というよりは、個人のデザイナーズ・ブランドを製作しているのか。フリーマーケットに並べる商品を製作している過程と勘違いしました。
雑然とした目の前の風景を一度、整理整頓したいこともあって質問しました。床に座る店主と思われる男性に尋ねました。「衣料を販売しているのですか?」。とても率直な疑問をぶつけました。「そうです。古着を再生しているように思えるかもしれませんが、そうでもないのです。価格は割安と思うでしょうが、それなりの価格で販売しています」と明快に即答してくれました。
価格はどのくらいするのかと知りたくて、ハンガーにぶら下がっている衣料をみると、びっくり。「高いよ、これ!5000円でも買わないなあ」と心の声がつぶやくのが聞こえたのか、「製作に自信があるので、ふさわしい価格をつけています」と店主と思われる男性は心の声に答えてくれました。「商売として続かないと思うでしょうね。でも、案外、続けられるのですよ」とダメ押しします。
手元にあるビラを読んでみました。「安い、速い、低クオリティという低めの志で死なずに生き抜く方法を発信し続けている山下陽光は、リメイクファンションブランド『途中でやめる』を主宰する一方・・・」と綴られています。牛丼の吉野家は「早い、うまい、安い」だから、目標は吉野家よりちょっと低めなのかな。でも、吉野家は一度、倒産したけどね。
「多くの人が続かないと思う通り、私も『途中でやめる』と言い続けています。ところが、途中でやめると割り切っていれば、やめられないものなんですよ」とニッコリと確信を持って明言します。
なるほど、確かに壁には「山下陽光 おもしろ金儲け実験室」という大きく書かれたポスターが貼られています。中央部には「壱万ギャン」と銘打ったお札と顔写真がデザインされていました。この顔の方が山下さんなら、目の前の男性も山下さん。どうも似ている感じがしないけど、まあ細かいことはどうでもよい、面白きゃ良いんじゃない!とスルーします。
一生懸命に製作する人は大好きです。だから、職人技の世界を取材すると、いつも夢中になってしまいます。正直言って、目の前に広がる衣料や作品を購入する気持ちは湧きません。でも、他人がどう評価しようが、自分自身がおもしろい、素晴らしいと思えることを展示し、販売できるなら、とても幸せです。65歳過ぎてからサイト制作を始め、まだ試行錯誤している自分自身にとっても、改めて肝に銘じるべき勇気と覚悟を感じます。そう、サイト制作はいつてもやめられるのです。そう考えて続けている日々は実に楽しいですよ。