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ユーグレナ、サステナビリティの理想と現実を彷徨うミドリムシはユニコーンになるか
ユーグレナが7期ぶりに黒字へ転換しました。2024年12月期決算は売上高が前期比2・4%増の476億1800万円と過去最高を記録したほか、営業利益は3億円、経常利益は4億3100万円を計上。当期純利益は損失処理に伴い6億5000万円の赤字ですが、営業損益の黒字は会計年度変更前の2017年9月期以来。ちょっと長かったかな。2025年12月期は前期比4倍の営業利益12億円を見込んでいますから、ようやく水面下から浮上して息を吹き返したと見て良いと思います。
グーグルのように飛翔して
ユーグレナには日本発のバイオ・ユニコーンになって欲しい。10年以上も前から期待を込めて注目しています。東証マザーズに株式上場した2012年、出雲充社長のお話を聞く機会がたびたびありましたが、にこやかな笑顔で話す思いにかける熱量には驚きました。現役の新聞記者時代に多くのベンチャー企業経営者にお会いしましたが、地球全体の諸問題を見渡して事業を語る経営者はそういません。「世界を変える」と語り続けるシリコンバレーの起業家と姿がダブりました。業種は全く違いますが、近い将来グーグルなどに負けないユニコーンに飛翔して欲しいと願ったものです。
それは日本の環境経営にとっても試金石となるからです。地球温暖化、社会のサスティナビリティを経営戦略に掲げても「絵に描いた餅」で終わる事例が後を絶ちません。直近では三菱商事の洋上風力発電事業が典型例です。三菱グループを代表する世界的な優良企業でありながら、予想外の採算悪化を理由に白紙に戻しました。「カーボンニュートラルに貢献っていっても、儲からなくちゃすぐにやめちゃうんだ」って感じです。
ユーグレナのミッションは明快です。ミドリムシの学名を社名に冠した通り、事業創出の源泉はミドリムシだけ。描く未来は「サスティナビリティ・ファースト」。人類の栄養問題を解決するだけでなく、バイオエネルギーとして活用し、カーボンニュートラル社会に貢献する。
事業内容はヘルスケア、バイオ燃料、有機肥料・飼料、途上国支援など幅広く展開していますが、すべてミドリムシが地球が直面している諸問題を解決するミッションを背負っています。ミドリムシで世界を変える。たいへんな野望ですが、創業者の出雲充社長の言動をみていると、自身の夢に向かって進み、起業する姿勢にブレがありません。
ミドリムシで世界を変える
なにしろ創業に至る経緯がおもしろい。東京大学の学生の時にバングラディッシュのグラミン銀行のインターンを経験して貧困と栄養不足の現場を体験した後、栄養不足解消の”特効薬”を探るため東大農学部へ移ります。その可能性を持つミドリムシと出会ったものの、事業化に目処がつかず、一度銀行に就職。しかし、諦め切れず当時のライブドアの堀江貴文氏に支援を頼み、2005年に友人らとユーグレナを創業します。そして世界で初めて屋外の大量培養に成功し、事業化への道筋を示しました。
経営スタイルも、異彩を放っています。18歳以下の最高未来責任者(Chief Future Officer)を公募し、経営陣に加えています。理由は単純明快。「未来のことを決めるときに、未来を生きる当事者たちがその議論に参加していないのはおかしい」。会社として未来を持続可能な形に変えていくためには、未来を生きる当事者である世代たちも経営に参画すべきと考えたそうです。
もっとも、企業経営の現実は理想だけでは食えません。当初の食い扶持は健康食品が主力。ヘルスケアです。上場以降、ミドリムシを使った健康食品や化粧品を他のメーカーと組んで発売し、売り上げを伸ばします。現実的な選択です。CO2排出の元凶といわれる化石燃料に代わるバイオ燃料を開発して世界的な市場創造にも努力しています。ただ、バイオ燃料の投資がかさみ、2018年から赤字経営へ転落していました。
経営戦略の修正は成長への通過儀礼
息を吹き返すために人員整理、経営戦略の修正を余儀なくされたとはいえ、理想と現実の谷間を彷徨うのは仕方がありません。グーグルの稼ぎ頭に育ったユーチューブにも迷路を彷徨った時期がありました。2006年にグーグルに売却した後、創業者のスティーブ・チェンさんに会いましたが、「自分には事業モデルにアイデアがなかった」と吐露していました。独創的なアイデアが事業として成功するためには、幾つもの試練を乗り越えなければいけません。
ユーグレナは理想と現実のサスティナビリティという二兎を追います。しばらくはバタバタするでしょう。しかし、日本からバイオベンチャーとしてだけでなく、人類、地球温暖化を救ったユニコーンとして評価される時が訪れて欲しいです。