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強欲と正義が問いかける「北尾吉孝」金融機関の経営者?、それとも投資ファンドの利益代弁者?

 SDIホールディングスの北尾吉孝会長兼社長が動くと、その背中を追うようにいろいろな言葉か浮かんでは消えていきます。今度は「強欲」と「正義の味方」。米投資ファンドが北尾氏をフジ・メディア・ホールディングスの取締役候補として指名し、本人もやる気満々のようです。マネーに対する嗅覚が鋭いだけに、自然に体が動いてしまうのか。なんか腑に落ちません。

なぜダルトンの提案を受け入れるのか

 説明するまでもなくネット金融を代表する経営者であり、多くの地方銀行を傘下に収めています。金融機関は企業の生死を握る資金を扱うのですから、経営者は中立、かつ客観的な判断を求められます。にもかからず、物言う株主と表されるアクティビストの利益代表に選ばれ、代弁者となる。利益相反の恐れはないのか。北尾氏がどういう感覚で受け入れたのか。不思議です。

 フジ・メディアの大株主、米ダルトン・インベストメンツは6月の株主総会で12人の社外取締役の選任を提案します。中居正弘「性被害」で経営の抜本的な見直しが迫られるフジ・メディアは3月下旬に新たな取締役の人事案を発表しましたが、ダルトンはフジの提案のうち5人は性被害問題に責任があり、留任はおかしいと判断、交代を求めていました。ダルトンの提案は事実上、取締役の総取っ替えを求めています。

  北尾会長が候補に選ばれる理由は過去の経緯があります。2005年、ライブドア の堀江貴文社長がニッポン放送の株式取得を通じてフジテレビの乗っ取りを画策した際、ホワイトナイト、いわゆる白馬の騎士としてフジテレビを支援した過去があります。ところが、今回はフジテレビの性被害問題に関する第三者委員会の調査報告書を読み、「あの時ホワイトナイトをやるべきではなかった」と自身のSNSで発信しているそうです。

M&Aに悪役も正義はない

 まるでダルトンのフジ・メディアに対する「物言い」が悪役フジテレビを正すかのような図式で考えるのは奇妙です。株式売買によるM&Aは、白馬の騎士を名乗る正義が通る代物ではありません。どちらが儲かるのか、損するのか。自身の株式の価値を増やせるのかどうか。株主が判断することです。

 ライブドアの堀江社長がその後、粉飾決算などで逮捕され、有罪となったこともあって、ホワイトナイトの北尾氏をライブドアによるフジテレビ買収騒動から守った「正義の味方」と認識していたら、それは勘違いです。

 北尾氏が率いるSBIグループは、成長著しいネット銀行の代表選手です。明治創業のメガバンクと歴史も経営規模も違う新興勢力とはいえ、金融業が死守しなければいけない企業倫理は同じです。HPには、創業時から「顧客中心主義」の徹底、「公益は私益に繋がる」という理念を掲げています。一時的な利益に目を奪われずに「徳業」を貫くと明記、「人には人徳、企業には社徳」と強調しています。

 多くの地方銀行も傘下に収めています。SBI地銀ホールディングスは、SBI新生銀行グループ、島根銀行、福島銀行など多数の地銀と資本提携しています。SBI本体は三井住友ファイナンスグループとも資本提携ししています。

 北尾氏をめぐる利害関係を考えたら、米ファンドの利益代弁者としての役割を担うことが果たして良いのでしょうか。

破綻したリーマンは強欲に支配

 2008年の世界的な金融大不況の引き金となったリーマン・ブラザーズの内幕を描いた本を読んだことがあります。社内の出世争いに勝つために猛烈に働き、その間に世間の常識、倫理観を忘れていく様子が詳細に描かれています。リーマン・ブラザーズを破綻に導いたのは金融の世界を支配する「強欲(greed)」です。たとえ本人は倫理観を忘れていないと自覚していても、知らず知らずに強欲の罠から逃れられなくなるのです。

 ダルトンは取締役の総取っ替えでフジテレビ、フジ・メディアをお仕置きするわけではありません。株式投資した資金を確実に増やして回収するのがファンドの仕事です。北尾氏が先棒を担うことはないのです。もう強欲の恐ろしさを、そして正義の味方でもないこともわかっているはずです。「人には人徳、企業には社徳」を唱えてみてください。

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