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牧野フライス 、ニデック「合意なき買収」敗者は優良株を失う東証

 この結末はどうも納得できません。牧野フライス製作所がアジア系投資ファンドのMBKパートナーズにTOB(株式公開買い付け)で買収されることになりました。2024年12月、ニデックが牧野フライスと事前交渉のないままTOBを仕掛ける「合意なき買収」を公表して以来、反発する牧野フライスの下には新たに投資ファンド2社がホワイトナイトとしてニデック対抗の買収提案が寄せられていました。牧野フライスはMBKの提案に賛同しているので、不幸な結末ではないと思うのですが、素朴な疑問が消えません。

伝説の投資家、清原達郎さんも注目

 この6ヶ月間の騒動はいったい何だったのか。誰が得したのか。もちろん、TOBに失敗したニデックは敗者ですが、どうも大損した悔しさが感じられません。牧野フライスは意図しない株式の非公開化を選択します。結局、濡れ手で泡のMBKは笑いが止まらない?最大の敗者は東証市場ではないでしょうか。ただでさえ魅力的な株式が見当たらないのに、製造業で数少ない優良株式の牧野スライスが姿を消してしまうのですから。

 牧野フライスは投資ファンドにとっておいしい存在だったのでしょう。2005年の長者番付トップにもなった伝説の投資家、清原達郎さんが著書「わが投資術」で牧野フライスを割安株の一例として紹介しています。コロナ禍で株式相場が暴落した当時、ヘッジファンドの運用責任者としてネットキャッシュ比率0・9と突出して割安な株式の牧野フライスを注目しました。

 ネットキャッシュとは企業価値を測る指標の一つで、比率が1を超えていれば、借金をして企業買収しても借金以上の現金が手に入るので、理論上?はタダで会社を買収できます。牧野フライスはその後、増配や自社株買いもあってファンドとして投資は成功したそうです。

 ニデックの永守重信さんは創業以来、買収を重ねて企業規模を拡大してきた達人です。清原さんと同様にニデックが魅力的に映り、仕掛けたはずです。

 当然、投資ファンドもわかっています。ニデックの「合意なき買収」をきっかけに牧野フライスを手にいれるチャンスと踏んだのでしょう。買収して株式上場廃止しても、後日に上場すれば莫大なリターンが見込めます。

世界が必要する微細精密加工技術

 買い物上手の投資家から見たら、牧野フライスは魅力的です。短期の運用利益を追わず、長期的な視点に立てば日本の株式上場企業の中では安心して買えます。

 強みはなんといっても優れた技術力。5軸制御マシニングセンタや微細精密加工機など世界の製造業が必要する高度な技術を確立しており、航空宇宙、医療、自動車産業などから高い評価を得ています。 いずれも製造業としての成長が十分に見込める領域ですから、牧野フライスの工作機械の引き合いもまだまだ期待できます。

 2025年3月期決算が証明しています。売上高は前期比3・9%増の2342億1600万円、営業利益は13・1%増の185億1600万円と増収増益を達成。受注額も11・5%増の2379億5500万円と高水準を維持。トランプ関税で先行きが読めない2026年3月期も影響は軽微と判断し、売上高、営業利益ともに過去最高を記録する見通しを明らかにしています。米国の航空宇宙関連向け、サブミクロン単位の精度が求められる医療器具やスマホ用カメラレンズの金型加工など他の追随を許さない技術が底堅い成長を支えています。

日本の個人投資家は桐谷さんを真似るしかない?

 その牧野フライスがMBKのTOBによって東証から消えるのです。ニデックの稚拙な買収戦略をとやかく批判する考えは毛頭ありませんし、魅力的な株式を失う東証に同情する気も全くありません。かわいそうなのは個人投資家です。NISAなど投資環境が整いつつある中、有力な投資先が消えてしまう。日本の個人投資家は、桐谷さんのように株主優待を活用して楽しむしかないのでしょうか。

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