• ZERO management
  • カーボンニュートラルをZEROから考えます。

スズキ・ダイハツがトヨタを抜き去る日 EV時代の主役交代シナリオ

 「我が意を得たり」。イタリアのカーデザイナー、マルチェロ・ガンディーニさんの慧眼を知った時の率直な感想です。ガンディーニさんは高級車のデザインで高い評価を集め、カウンタック、ミウラ、ランチア・ストラスなどのスーパーカーを手がけた巨匠と呼ばれています。

カーデザインの巨匠が軽を絶賛

 なんといっても、あのランボルギーニのブランド評価を一転させた力量の持ち主です。創業者のランボルギーニ氏はトラクター製造で巨額の資産を築いた後、1960年代に自らが理想と考える高級スポーツカーの生産を始めます。当初はキワモノ扱い。ボディーデザインは独創的でも、エンジン音は騒音にしか聞こえない。「トラクターメーカーが高級車を造れるわけがない」と冷たい視線を浴びていました。

 その汚名を吹き飛ばしたのが、カウンタック。ガンディーニさんがデザインしました。低い車高に四角いヘッドランプ。ドアは上に向かって開きます。何から何まで過去の常識を消し去り、すべてを”スーパー”に磨き上げました。ミウラは大好きな車でした。フェラーリの香りがするデザインが漂っていますが、大胆なフロントマスクがちょっと「オバケのQ太郎」に似ており、フェラーリと全く異なるテイストを体現しました。いかにも速そう。1970年代、日本のスーパーカーブームのアイコンになったことを思い出してもらえれば、カーデザインの巨匠と呼ばれるのも当然と納得するはずです。

 そのガンディーニさんは3月13日にお亡くなりました。85歳。その素晴らしい業績を伝える記事に電気自動車(EV)の未来を予感させるヒントがありました。ガンディーニさんのインタビューをもとにした「smart FLASH」の記事から一部を引用します。

愛車はワゴンR

 そこで、『これまでいちばん優れていると感じたカーデザインはなんですか?』と水を向けると、『“ジャバニーズ軽自動車” に決まっているだろ』と、断定的な言い方をしたんですよ。“ジャパニーズ軽” が突出していると。英語の『コンパクトカー』などではなく、まさに『ケイ』と言って、ほかにはないというような口調でした。

 決められた車両規格のなかで、日常的に使え、スポーツ仕様からファミリータイプまで多様にあり、なおかつ価格まで安い。『こんなものはあり得えない』と。ものすごく優れていると強調した姿が強く印象に残っています

さらに驚いたのが、愛車がスズキの「ワゴンR」だったこと。出かけるときは、ほとんどこれしか乗らないとおっしゃっていました。ご自宅は山の上のほうにあるため、周りにスーパーなどがほとんどなく、車で20~30分走らないとお店にたどりつかない。だから、『買い物のときはワゴンRで行くから』と

(smart FLASHから)

  ワゴンRは1993年、スズキが世に送り出した傑作です。軽自動車に革命を引き起こしました。軽自動車は割安な価格に燃費も優れているため、国民の足として普及しました。ただ、定められた軽規格内で設計しなければいけないため、室内の狭さなどの弱点を抱え、使い勝手に制約がありました。

 ワゴンRは車高を引き上げて室内空間を増やすとともに、室内のレイアウトも斬新に設計。小型乗用車に迫るゆったり感をひねり出しました。従来の軽乗用車でもなく、ワンボックス型の軽商用車でもない。軽と1000CC以上の普通車と棲み分けられていた新車市場の序列を取り払う「新しいクルマ」として登場したのです。キャッチコピーは「クルマより楽しいクルマ」。そのインパクトを証明するように軽の客層は一気に広がり、大ヒットしました。

 スズキと軽の首位争いを続けるダイハツ工業は遅れること2年後、1995年にワゴンRに対抗する「ムーヴ」を投入。ホンダや三菱自動車も参戦して軽の新車開発は一段と過熱し、進化が加速します。現在、軽が新車の4割を占めるエネルギーの源となったのがワゴンRです。

EVは軽が先導する

 それでは、なぜガンディーニさんの慧眼がEV時代の未来を読み取るヒントになるのか。軽自動車がEVの主流になると予想できるからです。まずエンジン車時代と違い、EVの顧客層は二極化するはずです。ひとつは高級車。人工知能(AI)を搭載して自動運転やエンターテインメントなどをフル装備しています。ホンダとソニーが開発する「アフィーラ」が良い例です。価格は1000万円を超えるそうです。

 もうひとつの極は買い物や通勤など日常生活の利用に徹した安価なEVです。EVが直面する課題を乗り越え、エンジン車に代わって実用的な移動体として飛翔する一番手と考えて良いはずです。

 EVはここ数年、普及し始めていますが、その課題が明確になってきました。まず価格。走行距離を左右するバッテリーなど基幹部品の生産コストが高く、車両価格を押し上げています。現在の価格は公的な補助金を頼りにしなければ、すぐには手が出ない水準です。エンジン車に例えれば、高級車を買えるかもしれません。

 次に使い勝手。モーターなどの駆動系、バッテリーなどの基幹部品は発展途上の段階ですから、生産コストの低下が期待できますが、充電インフラの不備もあって行動範囲に制約が生まれ、エンジン車と同じ感覚で自由に運転できません。長距離ドライブを計画してもバッテリー切れが心配で、道中の充電は必須。EVに乗りながら、EVが行動範囲を決める足かせになる。皮肉な構図です。

自動車産業の構図を変える衝撃に

 日産自動車や三菱自動車が2022年5月に発売した軽EVがヒットした理由は、EVが抱える短い走行距離、バッテリーの不安という課題をクリアしたからです。軽は通勤や買い物など日常生活の足として利用されますが、1日の走行距離も百キロ未満が多く、一晩自宅などで充電すれば充電切れを心配することもありません。慣れた道のりを走る機会が多いので、自動運転やエンターテインメントなど新たな機能を必ずしも備える必要もない。必要最低限の身軽なEVで十分なのです。基幹部品の大量生産が進めば、価格は着実に低下します。

 軽市場のシェアトップを競い合うダイハツとスズキはEV進出で遅れています。しかし、両社の激しい闘争本能が本領を発揮すれば、EV発売後のシェア拡大は加速します。現在、ダイハツは不正認証によって生産、販売で窮地にあります。その窮地を抜け出し、同じトヨタグループのスズキと連合を組んでEV市場に登場したら、自動車産業の構図が大きく変わる。それはトヨタグループの頂点に立つトヨタ自動車の地位も大きく揺るがすはず。

 それはなぜか・・・。次回に続きます。

関連記事一覧

PAGE TOP