
「白馬」が「北の峰」を走り、リゾートの地価は天空を駆け、日本人には何もかも遠い存在に
スキーやスノボードを楽しむ日本人にはちょっと憂鬱なニュースだったはずです。国税庁が発表した2025年の路線価格によると、全国で最も路線価が上がったのは長野県白馬村で、上昇率は32・7%。続く第2位は北海道富良野市北の峰町で、30・2%。いずれも世界からスキーヤーやスノーボーダーが押し寄せる冬季リゾートです。路線価の上昇は新たに土地を買いたい需要が高まっている表れですから、ホテル建設が相次ぐなど不動産投資が今後も拡大するのは間違いありません。
路線価上昇率で白馬村が1位、富良野市が2位
海外の不動産投資やインバウンドの拡大で長野県や北海道など地域経済が潤い、活性化するなら、大歓迎です。日本経済は人口減もあって成長余力が衰えているだけに、海外からの観光客や投資をうまく受け入れて経済的な浮揚力を高めるチャンスとして活用したいです。ただ、万歳と叫ぶ気持ちは湧いてきません。すでに京都など顕在化していますが、海外観光客らによるオーバーツーリズムの弊害を見逃すわけにはいきません。
すでに国際的なリゾートとしての地位を固めた北海道の「ニセコ」を思い浮かべてください。世界的な有名ブランドのリゾートホテルが進出し、北海道観光の国際化を加速する牽引役となっていますが、土地代のみならず人件費や宿泊費の高騰などで日本人観光客の足が遠のき、地元の産業に悪影響が広がるなどのマイナス面も問題となっています。
ニセコを訪れた海外の観光客は北海道内の他の観光地を訪れるなど幅広い地域に恩恵が及ぶ経済効果も証明されていますが、観光立国の先進地ではスペインやイタリアなど欧州ではオーバーツーリズムに耐えられず、観光客の抑制を求める意見が高まっているのも事実です。国や都道府県、市町村は行政の立場から弊害を抑える政策を積極的に打ち出してほしいです。
スキー場で日本人は少数派
白馬村、富良野市の変貌を間近に目撃しています。70年近くもスキーを楽しんでいることもあって、ニセコをはじめ北海道、東北、甲信越のスキー場を毎年訪れ、その活況と衰退を肌で感じていました。1987年の映画「私をスキーに連れてって」を契機に膨らんだスキーバブルは1990年代に入って弾け、その後は縮小の一途を辿っています。少子高齢化もあって若いスキーヤーはどんどん減っており、団体で見かけるのは学校などのスキー合宿ぐらい。
代わって今や多数派を占めるのは海外からのスキーヤーかスノーボーダー。友人や家族連れも多く、1ヶ月近くも長期滞在する家族グループに何度も会い、お話した経験があります。
富良野市北の峰のゲレンデで会い、リフト上でお話ししたオーストラリアの家族がわかりやすい例だと思います。1ヶ月ぐらいの予定で日本を訪れており、まず白馬村に入り、その後はニセコ、富良野を訪れているそうです。「オーストラリアは南半球でスキーなんてやるの?」と思う人が多いと思いますが、オーストラリア人はスポーツ大好きな国民です。国内にわずかですがスキー場がありますし、隣国のニュージーランドでは氷河スキーが楽しめます。1ヶ月ぐらいの長期休暇は当たり前ですから、北半球の日本へスキー旅行するなんて全く苦になりません。
しかも、ニセコや白馬村を世界的なスキーリゾートに育て上げたきっかけはオーストラリア人です。欧州でも体験が難しくなった繊細な雪質であるパウダースノーを日本で体験できることを世界に紹介し、オーストラリアでの人気が欧米や中国などアジアに広がりました。
海外の有名ブランドが集結したニセコの地元である倶知安町はついこの前まで土地代の上昇率第1位の常連でした。白馬村や富良野市の人気を考えたら、倶知安町と入れ替わってトップを占めるのは時間の問題でした。
宿泊、リフトなど高騰
ただ、世界的な国際リゾートになるのはうれしいのですが、私たち日本人のニセコ、白馬村、富良野市でスキーを楽しむ機会が失われる恐れがあります。ホテル代は高騰しており、予約も取れません。ネットで予約サイトをみると、ニセコは1泊10万円から、白馬村は3万円からという信じられない数字が並んでいると、ニセコも白馬村ももう無理と観念しそうです。スキー場のリフト券も1日券で1万円近くまで高騰しました。家族連れで楽しむことを考えると、日帰りスキーも断念しそうです。
正直いって、ニセコでスキーを楽しむことは諦めました。白馬村や富良野市は来シーズンも訪れるつもりですが、いつものホテルはもう無理でしょう。どんどん遠のいていきます。白馬も北の峰も遠くから眺める存在になってしまうのか。ホテル代は手が届かない天空のように上昇するのか。
日本人のスキーヤーやスノーボーダーは外国人に知られないスキー場へ向かうしかなさそうです。なんか「美味しいラーメン店を教えない雰囲気」になってきました。