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日産は「その場しのぎ」で救済できない、今度は鴻海のEVを追浜工場で生産?

 日産自動車が再び「思いつき」、あるいは「その場しのぎ」の沼にハマるのでしょうか。閉鎖を検討している追浜工場(神奈川県)で台湾の電子機器受託製造大手、鴻海精密工業と電気自動車(EV)の協業を検討しているそうです。追浜工場は地元の神奈川県に日産と取引する部品メーカーが多く、これまで地域経済を支えてきました。閉鎖となれば大打撃。存続を求める多くの声を受けて追浜工場の稼働率を引き上げるため、鴻海のEVを受託生産する選択が浮上しました。

工場の稼働率引き上げを狙う

 誰が見ても、日産の経営を抜本的に立て直す妙案ではありません。追浜工場の稼働率向上だけをみれば多少の効果はあるのでしょうが、日産全体の生産稼働率は国内外で7工場も閉鎖しなければ帳尻が合わない厳しいレベル。焼石に水でしょう。

 鴻海も十分に承知しています。日産がホンダと経営統合を交渉している最中に資本提携を打診したぐらいですから、内情はバレています。なにしろ、2019年まで日産副社長を務め、社長候補とまでいわれた関潤氏が鴻海のEV戦略を指揮しているのですから。日産の手の内は知り尽くしており、ひょっとしたら4月に就任したばかりのイヴァン・エスピノーザ社長より詳しいかもしれません。

 EVを追浜工場で生産するのはまだ1枚目のカードを切っただけ。中途半端な提携よりも、日産そのものを丸ごと手に入れる方が鴻海のEV戦略にプラスに働くことぐらいはわかっています。「庇を貸したら、母屋を取られる」のことわざをなぞるかもしれません。

三菱はEVを調達

 布石は打たれています。日産と資本提携する三菱自動車は鴻海からEVをOEM(相手先ブランドによる生産)で受け取り、オーストラリアとニュージーランドで販売することで合意しています。三菱ブランドは東南アジアに次いでオーストラリア、ニュージーランドでも高い人気を持っており、両国の環境規制をクリアするため、EVを外部から調達することにしました。

 日産と三菱は軽EVを共同で開発、生産し、大ヒットを飛ばした実績があります。EVに関しては日本車メーカーで最も先行している両社ですが、残念ながら技術は豊富でも肝心要の資本力が弱い。これに対し鴻海はiPhoneなどの受託生産で世界的な電子メーカーとなっているだけに、資本力は問題ありません。欲しいのは技術と熟練した人材が豊富な工場です。

 追浜工場はその突破口です。日産で生産したEVを三菱がオーストラリアやニュージーランドで販売するかもしれません。

 もっとも、日産の経営再建だけを考えれば、なんとも寂しい、というか悲しい。2025年3月期で6000億円を超える巨額赤字を計上したにもかかわらず、自力再建の道が見えていないからです。従業員や工場を大幅に削減する再建案は発表済みです。でも、どれほど実現性があるのか。さらにエスピノーザ社長をはじめとする経営陣の実行力を信頼できるのか。疑問が止まりません。

 無理もありません。2018年末にカルロス・ゴーンを追放して以降、日産の経営は「思いつき」「その場しのぎ」の言葉につきます。西川廣人、内田誠の歴代社長は日産再生を謳いながらも実行力が乏しいため、不甲斐ない経営が続いています。2019年末に就任した内田社長は再建に向けて世界販売を大幅に拡大する「NISSAN NEXT」を発表しましたが、社内から「これ実現できるの?」と自虐の声が聞こえてきたほど。

最後は「エイ!ヤァ!」かも

「思いつき」「その場しのぎ」の典型例は2024年の自動車産業を賑わしたホンダとの経営統合でしょう。自動車産業を知っている人間なら、鼻から無理とわかる日産・ホンダの経営統合の交渉はすったもんだ末、救済を求めた日産が「ばかにするな」との捨て台詞を吐いて雲散霧消しました。このままでは経営破綻すると直感した内田社長が「思いつき」でホンダに抱きついたとしか思えない悪手でした。

 鴻海のEV受託生産も「その場しのぎ」かもしれません。でも、日産の社内事情を知り尽くした関潤氏から見たら、渡りに船。むしろ、神奈川県に集中している日産系列の部品メーカーは関氏の日産復帰を望んでいるかもしれません。

 日本では鴻海を警戒する見方がまだあります。過去にシャープを子会社化しましたが、結局は経営再建に苦労しています。ましてまだ実績が乏しいEVです。日産を再建できるかどうかを見極めるのは無理です。ただ、エスピノーザ社長よりも関氏に社長として日産再建してもらった方が確実という選択肢は捨てがたい。

 逼迫する日産の内情を考えれば「思いつき」「その場しのぎ」どころか、「エイ!ヤァ!」で経営再建が決まる可能性は否定できません。

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