
25%関税の世界を見てみたい 衰退する大国が課する傲慢を逆手に世界経済の革命が始まる
トランプ米大統領が7月7日、日本からの輸出製品に25%の関税を課すと表明しました。対日貿易赤字は日本の貿易障壁によって生じていると考える持論に従い、8月1日から日本から米国に送られる全ての製品に25%の関税を課すと通告したのです。8月1日まではまだ3週間程度残されていますから、日米政府の合意内容によって関税が実際にどう発動するかは不明ですが、交渉担当大臣の赤沢経済再生相がトランプ大統領の傍で赤いキャップを被って置物のように立って笑う写真を見て以来、進展は期待していません。
赤いキャップの大臣交渉は期待できず
仮に25%関税がそのまま実行されたら、輸出する日本のみならず輸入する米国の経済、企業にとっても大打撃になるのは確実です。脅しすかしで相手を揺さぶるディールが好きなトランプ大統領ですから、予想もしないオチが待ち受けているかもしれませんが、日米で先行きに不安が広がるのは当然です。
もっとも、本音は違います。「25%関税の世界」を一度は見てみたい。不謹慎だと怒る方は絶対にいらっしゃるのは承知です。それでも、です。第二次世界大戦後から80年、欧米が中心になって構築してきた自由貿易体制が崩壊するのか。それとも高関税を飲み込んで新たな貿易の流れが再生するのか。
G7、G20、BRICSと呼ばれる経済圏も変貌を強いられ、世界経済の力学がどう変わるのか。人間の生活など命に関わるわけですから安易に表現したくないですが、トランプ大統領が強引に進める壮大な、そして愚弄な実験結果を目撃したい気持ちはあります。
振り返れば、大学生の頃、アダム・スミスが著書「諸国民の富」で「強欲に金儲けばかり考える重商主義を捨て、他国の得意分野を利用して一緒に経済成長しましょう」と国際分業を説いた先見性に深く感動したのを覚えています。200年以上も前に自由貿易を前提にした資本主義を唱え、自国の権益を守り、他国から搾取する強欲に走る国はむしろ損を受けるとまで指摘していました。経済学者のアダム・スミスは、実は道徳・倫理を重視する学者であることも知りました。
アダム・スミスは強欲より倫理を
もちろん、現実の経済、言い換えれば貿易が完全無欠のまま機能するわけがありません。強欲を捨てろと言われても、自国に有利な貿易を進めるために関税や非関税障壁が国境に打ち立てられます。経済学の論理を掲げながら、米国や欧州がその経済力と政治力を前面に押し出して無理難題を突きつけてきた歴史も知っています。
日本にとっては、1985年9月のプラザ合意はまさに拳でがつんと殴られたのも同然です。第二次世界大戦で敗戦したにもかかわらず、高い経済成長を堅持し、欧州を抜き去り、米国の背中が見える世界第2位の経済大国になっていました。ドル円相場は大変動し、1ドル240円台は1年後に150円台となる超円高を経験しました。
当時の貿易摩擦の主役は自動車。対米貿易赤字を拡大させる悪役でした。幸運?にも自動車産業を取材する記者でしたから、自動車メーカー、部品メーカーの経営者が真っ青になる現場を取材していました。日本経済は奈落の底に落ちるとまで悲観したものでしたが、数年後には1990年のバブル経済に向かう好景気となっていました。
経済はアメーバのように姿を変える
実感しました。経済は生き物だ、と。経済環境に合わせて、企業やマネーの流れはアメーバーのように環境の変化に合わせて形を変えていき続けていくのです。長年、取材した結論の一つです。
今回の25%という未体験の高関税も、驚天動地という思いはありません。日本製鉄をみてください。最大の強敵とみられていたトランプ大統領を最大の支援者に変えて、USスチールの買収に成功しました。25%の高関税を日本企業が、そして米国企業がどう飲み込むのか。全く新しい発想で経営戦略を書き直すはずです。心の底ではこれから始まる世界経済の革命にワクワクしています。