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ホンダが消える22 EV創出の実力を問う シビックはなぜRSだけ残ったのか

 ホンダの切り札は「RS」なのでしょうか。主力小型車「フィット」が近くマイナーチェンジしますが、RSが加わります。2001年に初登場し、販売ランキング第一位を獲得する大ヒット。燃料タンクの巧みなレイアウトなどで広い車内空間を実現、次代小型車の先進モデルと評価されました。ところが、2020年の4代目でつまずき、販売は低迷。過去もRSは追加されているので驚くことはないのですが、勢いを失い始めたら「RS」で走りを取り戻す発想なのでしょうか。

RSは走り屋の記号

 「RS」はスポーツタイプの走り屋を強調する記号です。最も有名なのは日産自動車の「スカイラインRS」。1981年に登場、ターボチャージャーを組み合わせたパワー競争に火をつけました。アウディ、スバルなど高い走行性能をブランドのアイデンティティーとしているメーカーもRSを多用します。

 ホンダで思い浮かぶのはシビックRS。1972年に発売されたシビックはホンダを世界的な乗用車メーカーの地位に押し上げました。2年後、RSが特別仕様として追加。エンジンをパワーアップして5速のMTを加え、高速や峠道などを楽しく走れるスポーツモデルとして新たな評価を得ました。ホンダにとって「RS」は思い入れがあるのでしょう。他のホンダ車でもRSが設定されていますが、オレンジをイメージカラーに選ぶのは初代シビックRSへのオマージュだそうです。

使い勝手の良いクルマがいつのまにRSだけに

 シビックは個人的にも思い入れが強い車です。大人3人乗るとエンジンはちょっと息切れしますが、デザイン、使い勝手どちらも優れ、マイカーとしてガンガンに乗り回していました。ホンダの主力小型車の地位は変わらないと思い込んでいましたが、途中でフィットにその地位を譲り、ひと回り大きいクラスへ格上げへ。日本市場では一度姿を消し、寂しい思いもしました。復活したシビックはRSを冠していませんが、走りを特徴にしたモデルになって再び目の前に現れました。現在の専用ページでは「爽快 スポーツe:HEV」「#RunForever」が躍っているぐらいですから、事実上RSの輝きを放っています。

 シビックがどうして”RS”でしか生き残れないのか不思議です。あれだけのブランド認知度、性能も使い勝手も高い評価を集めながら、小型乗用車の市場で「走り屋」という脇役に甘んじなくてはいけなくなったのか。日本のみならず世界全体を見渡してホンダのラインナップを再編した結果らしいのですが、シビックに染み込むブランドと信頼は長い年月と多くのユーザーによって築き上げられたものです。

沈滞を破る時に登場するのがRS

 ホンダの魂というとフォーミュラーワン(F1)がかならず登場します。「ホンダの走り」は別格です。だからこそ経営や販売が沈滞すると、ホンダのイメージ刷新を担うRSの新車が登場します。直近でも軽スポーツ「S660」、高級スポーツカー「NSX」。両車とも近く消えます。花火のようにパッと開き、猛烈な輝きを放ちますが、長持ちしない。

 ホンダに小型乗用車を育てる力があるのか。この疑問はなかなか消えません。現在、日本で最も売れている車種「N-BOX」を抱えています。しかし、このほかは息切れする車種が目立ちます。日本でのシビックの生き残り方を見ていると、同じホンダのN-BOXと競合し販売不振に直面しているフィットがいつか同じ道を歩むのかと心配です。

 この疑問はホンダの未来を描き直すEVにも重なります。最初の一手で送り出した「Honda e」は生活と街に溶け込むコミューターをコンセプトで開発されました。本来ならシビック、フィットなど小型車が担うミッションですが、シビックはすでに失敗、フィットもアイドリング寸前です。ホンダはコミューターの市場シェアを握れる力を持っているのでしょか。

EVはコミューターから市場を切り拓く

 近未来のEV市場を考えてみましょう。電気自動車は軽の規格に囚われず、自動車開発は大きく変わります。確実に言えるのは、ガソリン車が100年以上かけて築いた自動車市場の構図は一気に消え去り、EVの特性を活かした需要構造に書き替られることです。

 日本市場で見えてきたのは、軽と商用車で予想以上に定着、普及する可能性です。日産の軽EV「サクラ」の大ヒットは多くのヒントを示唆しています。走行距離や充電で制約があるものの、自身の生活に適したEVを選ぶ。まさにホンダが「Honda e」で目指したコミューターです。

 近い将来、蓄電池の能力が高まり、走行距離はガソリン車並みにすぐに近づくでしょう。しかし、充電時間や施設などインフラの問題はガソリンスタンドほどの手軽さは望めず、クルマの使い勝手を制約します。インフラ面の制約を考えると、ホンダなど走りに強いメーカーはこれまでのようにRSでお客に訴える手はかなり限られるでしょう。

ホンダはEVの波に乗れる実力を備えているのか

 EVは発展途上です。各メーカーは多くの妙手を繰り出して需要を開拓し、育てている段階です。未来と可能性はどんどん変わるでしょう。しかし、ガソリン時代と大きく変わるクルマの使い方は、これまで以上にクルマに対し実用性を求めます。あこがれは脇に置かれるでしょう。お客が求めるニーズに適合したクルマでなければ、一瞬人気を集めても火花のようにすぐに消えてしまいます。ホンダはEVの波に乗る実力を備えているのでしょうか。

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