• ZERO management
  • カーボンニュートラルをZEROから考えます。

三菱商事、創業理念「所期奉公」を汚す洋上風力発電の無茶苦茶

  三菱商事が千葉県と秋田県の3海域で進めていた洋上風力発電所の建設計画から撤退します。中西勝也社長は2月に「ゼロから見直す」と表明しており、驚きはありません。むしろ三菱商事の杜撰な経営に驚きます。三井物産と並んで海外の石油やガスなど資源エネルギーで稼ぐ三菱商事です。エネルギー投資のリスクを骨の髄まで知っているにもかかわらず、今回の計画はあまりにも無茶苦茶でした。

赤字覚悟の事業だった?

 今回撤退する洋上風力発電計画は千葉県銚子市沖、秋田県の能代市・三種町・男鹿市沖、由利本荘市沖の3海域が対象で、国の洋上風力発電事業「第1ラウンド」と呼ばれ、総額1兆円に迫る巨大プロジェクトでした。

 失敗は許されません。政府は第7次エネルギー基本計画で、電源構成に占める風力発電の比率を23年度の1・1%から40年度に4~8%程度に引き上げる目標を掲げています。地球温暖化防止に向けて脱炭素を加速する日本にとって是が非でも成功させなければいけません。

 政府は2021年に洋上風力の事業者を公募。三菱商事は中部電力との企業連合で入札、落札しました。落札の決め手となった売電価格は1キロ・ワット時当たり11・99~16・49円。政府が設定した入札上限は1キロワット時当たり29円。ライバル社は20円台で応札したそうですから、11〜16円台がいかに安いかがわかります。ライバルからは驚きの声と共に、落札した三菱商事の事業採算性を疑問視する声が出たそうです。至極当然でしょう。

 三菱商事は赤字覚悟の落札だったのかもしれません。今後も国家プロジェクトとして拡大するのは確実ですから、石油・ガス、石炭に続き、三菱商事が主導する新しいエネルギービジネスとして期待していたのでしょう。

地域との協力体制に努力も

 巨大プロジェクトに不可欠な地域との協力関係の構築にも努力していました。洋上風力発電を展開する千葉、秋田両県で「持続可能な漁業支援体制の構築」「地域産業の振興と雇用の創出」「住民生活の支援」を3本柱にグループ企業のローソンや協力企業と連携して、地域産品の販路開拓を進めていました。もちろん、千葉、秋田両県も地域経済の活性化に繋げたいと期待。洋上風力発電に関連した技術習得や投資が広がり、人材育成も始まっていました。

 ところが、2025年に入って突然、三菱商事は524億円、中部電力も179億円の減損損失の計上を発表します。ロシアのウクライナ侵攻などで資材費が高騰。洋上風力発電事業の採算見通しは大幅に悪化、三菱商事は洋上風力が完成しても費用を回収できないと判断しました。

 もっとも、巨額を投じる資源ビジネスに思いもかけぬリスクが襲いかかるのは業界の常識。三菱商事はこれまでも多くのリスクを経験し、乗り越えています。洋上風力発電もウクライナ侵攻など予期せぬ戦争の勃発があったとはいえ、事業計画を作成する際には予想外のリスクをいくつもシミレーションしているはずです。

事業創造力を失ったのか、あるいは過信したのか

 側から見れば、まずは洋上風力発電事業を落札することに目が眩んでいたとしか思えません。三菱商事の巨額利益を稼ぎ出す資源エネルギーの裾野を広げるためにも、再生可能エネルギーをなんとしてでも柱に育てたい。そんな思いだけが先走ったのでしょう。

 それとも、これまでの資源投資に酔い、投資案件を取得すれば元は取れると勘違いしてしまったのか。あるいは1兆円の利益を手にした自身の力を過信したのか。商社としてリスクを取りながら、新たな事業創造する挑戦と直感を失ったとしか思えません。

 三菱商事には創業以来掲げる3綱領があります。「所期奉公」「所事光明」「立業貿易」。収益拡大などの強欲に囚われず、事業活動を通じて社会に貢献する理念を説いています。とりわけ「所期奉公」は「事業を通じ、物心共に心豊かな社会の実現に努力すると同時に、かけがえのない地球環境の維持にも貢献する」と解説していますが、今回の洋上風力発電の事業計画は全く真逆の流れ。

「経営戦略2027」より、まず原点回帰

 洋上風力発電事業の将来性を危うくしたうえ、事業協力する地域の信頼も失ってしまいます。風力や太陽光など再生エネは自然の力を利用する一方、環境破壊を招くのではないかという不安が常にあります。三菱商事の撤退は、巨大プロジェクトに対する地域の不安が的中する悪い例になってしまいました。

 三菱商事は2025年4月、「経営戦略2027 総合力をエンジンに未来を創る」を発表。多数の財務指標を使って詳細に収益分析し、自社の明るい未来を描き出しました。そして「三綱領に立ち返り、全てのステークホルダーの要請に応えながら、事業活動を通じて『経済価値』『社会価値』『環境価値』の同時実現を果たしていきます」と謳っています。

 洋上風力発電の撤退は図らずも「経営戦略2027」を達成するどころか、今こそ真摯に3綱領に立ち返り、創業の原点から再スタートを切るべきと三菱商事に教えています。

 ◆ 写真は三菱洋上風力発電のHPから引用しました。

関連記事一覧