2回目の収穫を待つブロッコリー

会員制農園 ② 知らぬ間に野菜とカラダが会話し始めます。

野菜とカラダが会話する。奇妙なことを書くと思うかもしれません。でも、実感です。前回は「野菜に食べられている感覚」との表現を使いました。週1、2回農園に通う初心者にとって、4坪の農地から収穫されて目の前に並ぶ野菜の山に正直、閉口する時が今でもあります。茄子やきゅうり、トマトが冷蔵庫の野菜室に収まりきらず、室温が低く日当たりの悪い家の隅に置くしかありません。大根の葉っぱは味噌汁や炒めて塩昆布やしらすなどを混ぜるとてもおいしいのですが、日数が経過すると緑色から黄色へ変色し始めます。野菜を目にするたびに、「このままでは腐ってしまうよ」との声が聞こえてきます。その幻聴に脅かされて、これまで検索したこともない調理レシピを教えてくれるネットサイトを参考に野菜を料理したこともあります。でも、野菜を使い切ることばかりに意識が向かい、楽しくありませんでした。

「今日はこんな感じで食べたい」と身体が囁きます。

貸し農園での野菜栽培を始めて2年目ぐらいですか、ふと違うところから感じる声に気付きました。「今日はこんな感じて食べたいな」。誰がささやくかと言うと、自らの身体です。もともとその時その時に食べたいものを選ぶ主義でした。お肉も魚も野菜も嫌いなものはほとんどありません。「目の前の材料をこんな味付けで食べると、気持ち良く食える」といった感覚です。居酒屋でも同じです。カウンター席に座って、ずらりと並んだ材料を見ながら、唾がジワッと湧いてくる食材を頼みます。手の込んだ料理よりも「切ったり焼いたり煮たり」のひと手間を加えたアテが大好きです。そのままの生も大好きです。素材の味を楽しむというと格好良すぎますが、お店の大将や女将が選ぶ食材や味付けをアテにお酒を飲むとうまいと感じています。

この冬の時期なら小蕪(かぶ)が良い例になります。今冬の小かぶはうまい。例年以上にうまいのです。丸いかぶの実を薄切りにしてかじってみてください。品の良い甘みがジワッと口の中で広がります。薄切りのまま他の野菜と混ぜても良いですし、かぶそのもので和風ドレッシングやオリーブオイル、バルサミコなどをかけて食べると株の味わいがひろがります。もちろん、かぶ漬けもナイスです。スーパーなどで販売している漬物の素みたいなものと一緒にビニール袋に入れて揉んで冷蔵庫に入れておけば、おいしい浅漬けができあがります。味噌汁や煮物など正攻法の調理は間違い無いですし、軽く煮込んで押し潰してスープのように食べるのもいつものおかずからの「味変」になります。収穫した日は丸くて白いかぶの肌についた土を洗い落としながら、「今日、おいしいと感じる食べ方は何かな」と身体と相談するのが好きな習慣になっています。

収穫のたびに違う味、食べ方を楽しめます。

実は昨年、小かぶをさあ食べようと言う時期にねずみか鳥などに先に味見されてしまい、くやしい思いをしました。彼らは命をかけて狙っていますから、ちょうど美味い頃に先を越されることがたびたびでした。それで今年は早め早めに実の育ちをチェックしながら、いつもより早めに収穫してみました。今年秋以降の天候が幸いしてホントうまいのにびっくり。まだ早いかなという小さい玉のかぶもおいしいですし、かなり大きく太った玉のかぶは渋めの甘みが感じられます。今回初めて成長に従って変わる味を楽しめました。おかげで都会に住む獣のみなさんにつまみ食いはされませんでした。

ブロッコッリーやカリフラワーはかぶと違う楽しみ方ができます。我が家では朝に食べる野菜サラダとしてほぼ毎日、テーブルの上に登場します。まず茹で時間によって甘みに変化がありますし、振り返るオリーブオイルの量やバルサミコを変えて遊んでいます。しかもブロッコリーは花の蕾に相当する食べる部分だけを切り取って収穫すれば、残った幹から再び小さいですが再び花の蕾がそだってきます。一本のブロッコリーで2度、3度収穫できるので、最初の味を念頭に今度はこんな味付けはどうかなどといろんな試し方ができます。

カリフラワーはピクルスでも遊んでいます。酢漬けのピクルスに調理する際もハーブや唐辛子などの使い方で味の強弱が生まれ、漬けるたびにちょっとした驚きと発見があります。我が家ではバジリコやローズマリーなどハーブもベランダで育ており、最近はローズマリーのいろいろな使い方を楽しんでいます。カリフラワーのピクルスにこんなに合うとは思いませんでした。ただ、農園でハーブ類を育てている人でも、結局は香りの強いハーブや葉物野菜をほとんど食べない例も見たことがあります。味の好き嫌いは個人差がありますから仕方がないのですが、立ち枯れするハーブがもったいなくて代わりに収穫したくてしょうがない経験もあります。

その代表例が大根やかぶの葉っぱかなと思います。香草じゃありませんが、地上にド〜ンと存在感たっぷりに伸びている葉を食べるかどうか、「あなたは私を食べますか」とまさに決断を求める気迫を感じるのかもしれません。私は大根やかぶの葉は大好きですが、にんじんの葉は食べません。レシピがありますが、にんじんの葉は食べる意欲がありません。ですから、大根の葉を食べない人をどうこう言う資格はありません。八百屋さんでも大根やかぶの葉を切り落として売っている場合が多いですし。

でも、大根の葉っぱなど食べれずに切り捨てられることも

ただ、まさに決断を求められた人がいた場面に遭遇したことがあります。大根の収穫期に大根を洗っていたら、近くにいたご夫婦の会話が聞こえてきました。旦那さんが「この大根の葉をどう調理したら、美味しく食べれるのかな?」と問わず語り風につぶやいていました。それを聞いた奥さんはその大根をつかむと、そばにあったテーブルに置き、「私に何をさせる気なの!」と語気強めに話して右手に持っていた包丁で大根の葉っぱが生える青首をばっさりと切り落としたのでした。声は出しませんでしたが、怖かったです。

食は保守的、身体が欲するままに

農家のみなさんは野菜をきれいに洗い、出荷しています。大根の葉などもきれいな青緑に輝いているものが多いはずですが、どうしても土や虫がついている時があります。土=汚いと思うのは当然ですから、大根やかぶの葉を切り捨てる人が多いようです。せっかくりっぱに育った大根やかぶがすべて食べられないのはもったいないと思います。食品ロスを減らそうという意識が広まっていますが、小さい頃から育った食習慣はそう簡単には変わりません。食べることは健康や安全に直結します。これまでの経験に裏打ちされた知恵と直観によって判断に従うのは当然です。食は保守的です。だからこそ、身体が欲する野菜と食べ方が良いのかもしれませんが、これも個人の感想です。

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