トマト

会員制農園⑨「環境農家」の遠景と近景 迫ろうとすると遠ざかる存在

 会員制農園の参加しながら、野菜栽培を体験して8年ほどになります。種まきから始まり、畑の土壌の手入れ、肥料の施し方、野菜の育て方など。作業日には毎回、ていねいにプロの農家から教えていただいています。しかし、いつも痛感します。職業として野菜を育て販売するのか、趣味の延長線上で野菜を育て食べるのか。この両者の間にある隔たりはやはり大きいと。

テントウムシを害虫だからと取り除くことができない

 そんな思いを反芻しているなかで、「環境農家」という肩書きを新聞やテレビで目にするようになりました。「環境農家って?」と素朴な疑問が湧きました。地球環境と経済成長の均衡点を探る企業経営を「環境経営」と呼び、「ゼロマネジメント」という造語も捻り出したこともあります。「環境農家」の字面はすぐ目に馴染んでしまうのですが、通常の農家と何が異なるのか?

 野菜は空気中の二酸化炭素を吸い、光合成を経て成長力を生み出して酸素を吐き出します。カーボンニュートラル をそのまま体現する環境問題の優等生です。といっても、土壌に肥料を加えたり、トラクターなど農業機械を活用したり。野菜を傷める虫を駆除するために薬剤を散布したりします。これを環境破壊、地球環境と共存していないとみるかどうか。無農薬栽培や有機栽培をめざす農家をいますし、肥料や薬剤を使用しないで育てた野菜を購入する消費者は多いのですから、きっと一般的な農業はあまり地球環境と共存してる関係とはいえないのでしょう。

 「環境農家への道」というタイトルを冠した書籍を見つけました。今森光彦さんが著した「光の田園物語」のサブタイトルでした。今森さんは写真家、切り絵作家として自然と田園風景を題材に多くの作品と著作を発表されています。

 光と田園物語は1年間の四季を通じて自然と里山の風景を取り戻す過程が再現されています。気負いを感じさせない文章や写真はさすがです。「うまいなあ」と感動します。読み進みながら、自然と共に生活する空間を手伝っていることがわかってきます。

 今森さんは環境農家をいう言葉を生み出した瞬間を次のように表現しています。

 荒れた農地を手に入れたとき、頭のなかに、新しい言葉が思い浮かんだ。それは”環境農家”。作物を収穫する土地としてだけではなく、農地を、生きものの棲家としても考える。そして、人が数多くの生命と触れ合える場所を目指す。”環境農家”は豊かな土の匂いを取り戻すプロジェクトでもある。

 会員制農園で家庭菜園を楽しむアマチュアの目から見ると、憧れであり、とても手が届かない遠景です。毎日、野鳥保護のサンクチュアリーがある公園を散歩していますから、自然に手を入れながらできるだけ自然のままの世界を人間が生活する素晴らしさは体感できます。 

野菜以外にも貴重な収穫体験ができます

 ただ、野菜を育てていると、鳥獣が野菜を食べ、虫が葉や実を食い荒らす被害に襲われる日々です。テントウムシがナスや他の野菜の葉や実を傷めているのを見つけても、「テントウムシならまあ良いか」と見逃してしまうことがたびたびです。ゆずなどの果樹の葉に集まるアゲハチョウのいもむしなどもまるでアニメ映画に出てくるような姿そのものなので、思わず写真を撮りますが、実際は結構な被害を与えてくれます。そんな余裕を保てるのも、アマチュア農家だからと思えます。

 ”環境農家”は発展途上の概念と受け止めています。収穫する作物の品質と量を重視するプロの農家にとって、事業継続を可能にするうえで多くの難題を抱えています。「自然は素晴らしい」という思いだけで農家のみなさんが自らの事業を維持できるとは思えません。

 農業水産省は環境を保全する農業を次のように定義しています。

農業の持つ物質循環機能を生かし、生産性との調和などに留意しつつ、土づくり等を通じて化学肥料、農薬の使用等による環境負荷の軽減に配慮した持続的な農業

 アマチュアだからといって腰が引けているわけではありません。会員制農園に参加して野菜と土に触れているだけで、「環境農家」という文言ひとつに多くのことを考えるきっかけと材料を手にすることができます。とても身近に感じているつもりでも、実際はまだまだ手が届かない存在。地球環境を考えながら、おいしい野菜を食べる日々は野菜を収穫する以外にも、思わぬ収穫体験をしていることを教えてくれます。”環境農家”をしばらく引きずりながら、これからの秋冬野菜の栽培に取り組むつもりです。

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