熱いパッションで農業女子が格好いい「おばあちゃんになっても搾乳」

  すごく格好良い。農業に従事する女性です。

北海道庁の情報誌「confa」から

 北海道農業・農村情報誌「confa」2023年春号の読後感です。特集は「農を拓く、女性たち」。登場するのは、十勝・広尾町の酪農家、石狩・仁木町のトマト農家、富良野市の高校生ら。みなさん、言葉が熱い。自ら取材せずに情報誌に取り上げられた記事について書くのは気が引けるのですが、秀逸な内容だったので一部紹介したいと思います。

 例えば広尾町の酪農家。牧場の入り口に掲げている看板には「ノー・パッション、ノー・マドリン」。牧場経営する会社名が「マドリン」ですから、要約すれば会社の経営理念は「情熱」のひと言。

 「confa」によると、牧場主の角倉円佳さんは酪農家に生まれましたが、酪農の手伝いが嫌いで帯広の高校へ。ところがその後、帯広畜産大学に入り、カナダの牧場へ研修留学。「ボスが女性で、本当にかっこういい人でした」とその生き方に憧れ、女性1人でも酪農できる働き方に感激したそうです。

カナダの研修留学でのボスに感激

 24歳の時に30頭の牛で独立。現在は110頭まで増やしています。「女性が、と強調されるのがあまり好きではない。男性よりも力がなければ工夫すればいいし、私はそれを牛たちから教えてもらっている」と話します。

 最も心に響いたのは次の言葉です。

取材した編集者が労働力を経営する搾乳ロボットを導入する気はないかと尋ねたら、「まさか、大好きな搾乳ができないなんて・・・。おばあちゃんになっても搾乳していますよ」と答えます。

 とても格好良い〜。2012年から農業女子会「SAKURA会」を設け、女性同士のネットワークも広げているほか、「酪農女性サミット」「南十勝酪農女性プチサミット」などを開催。地元のFM局ではパーソナリティとして酪農の魅力を発信しています。まさにパッションの一語に尽きます。

旭川でも逞しさを体感

 旭川でお会いした農業の女性たちの会話を思い出しました。「いやあ、東京から来たの。私らは農家だから地元から離れられない。一生、東京へ行くことないかも」と笑い飛ばされました。地元以外に出れないと悲観しているわけではありません。東京に行くことよりも、栽培する野菜の世話やジュースなど加工品を生産する日々を楽しんでいました。褒め言葉になるかどうか自信がありませんが、「逞しさ」に惚れ惚れしたものです。

 農業を取材していると、「長時間」「作業の厳しさ」いう言葉が浮かぶ時があります。北海道は酪農王国として経営規模が大きく、機械化が進んでいます。北海道でもとりわけ大規模な酪農家が集まる別海町で見た酪農施設はまるでビルのよう。驚きました。飼育頭数、機械化、牧場面積などを踏まえれば「EUには負けたくない」と話す酪農家の思いも理解できました。

 酪農は飼料、搾乳など毎日の作業を欠かすわけにはいきません。労働時間も長く、糞の処理など素人からみればきつい作業が日課です。牛舎、関連施設、機械化で大きな投資と借入金が重荷です。直近でいえば、輸入飼料の高騰などで経営は一段と厳しさを増しています。事業継続を支える後継者不足も待っています。取材でお会いした牧場主はほとんど男性が先頭に立っていました。北海道の農業がより強くなるためには女性の活躍の場が広がり、大きな戦力にならなければいけません。

 「confa」では決してバラ色の酪農、農業の未来を描いているわけではありません。ただ、北海道各地で続く様々な試みが日本の農業の可能性に希望をもたらしているのは事実です。読後感が良い理由がわかる気がします。

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 「confa」の企画・発行は北海道庁の農政部農政課で、1998年から春と秋の年2回、発行しています。編集方針は「農業と、話をしよう」。野菜や乳製品を生産する農家と購入する消費者を結ぶのが狙いだそうです。2年前、北海道旅行で立ち寄った道の駅で見つけて立ち読みしたら、お役所仕事(失礼!)とは思えない編集センスに驚き、以来無料で郵送してもらっています。

「confa」の概要ははこちらから

https://www.pref.hokkaido.lg.jp/ns/nsi/seisakug/confa.html

 

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