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北海道の味が消えていく 柳葉魚、ニシンの身欠き、音威子府そば、きっと函館のイカも

 旭川の居酒屋「独酌 三四郎」でお酒を飲んできました。1年ぶりです。旭川に足を踏み入れたら、かならず訪れるお店ですから木戸を開けてカウンター席に座るだけで十分満足なんですが、今回は2つの目的がありました。

1年ぶりの「三四郎」でししゃもを食べるはずが

 一つ目はししゃも。こちらは毎度同じ。ししゃもといえば、お腹が卵で膨らんだ細長い魚を思い浮かべると思いますが、あれはカペリン、あるいはカラフトシシャモと呼ばれ、全く別の魚。スーパーなどの店頭に必ずといってよいほど並んでいますが、ししゃもの代用魚として輸入しているものだそうです。

 北海道のししゃもと限定したら、、鵡川(むかわ)町のししゃもが有名です。ノーベル化学賞を受賞した北大の鈴木章名誉教授の実家がししゃも販売店で、ノーベル賞をきっかけに実家でお店を経営するお兄さんがぶら下がっているししゃもと共にテレビによく登場していました。

本物の柳葉魚と焼燗

柳葉魚(一年前)

 私の大好物のししゃもは北海道東部の広尾町の沖合で獲れる「ししゃも」。自分の目と舌には鵡川町のししゃもは広尾産とは別物。ししゃもは漢字で書くと柳葉魚。柳の葉のような外形と香りとして表現されるように、食味には独特の香りとクセがあります。ほのかな香りに魅了されます。カラフトシシャモの影響もあって卵を抱えた雌がおいしいと思うかもしれませんが、白子を抱えた雄も格別にうまいのです。真鱈もそうですよね。

 干したししゃもを軽く炙り、プチッと肌が弾けるぐらいの焼き具合で噛み締めるように食べる。柳葉魚の香りに続き、ちょっと硬い感触が時間差で襲いかかってきます。「うめぇ!」と声が出ます。

 ところが、いつもと違う風景に気づきます。「ししゃも」の品書きが眼の隅に写るはずなのに反応しない。まさかと思い、普段は使わないメニューを開いて探してみたら、「ししゃも」の文字に品切れとあります。カウンター内で魚などを焼くお店の方に思わず「今日は無いの?」と素っ頓狂な声で訊ねたら、「不漁が続き、入荷してこない。漁獲量が不良の昨年でもトン単位だったけれど、今年は数十キロ単位。とてもお店に出せる状況ではない」と教えてくれました。愕然!とは、この時に使う言葉か。

柳葉魚がなければ身欠ニシンを食べたいと思ったけれど・・・

 とにかくお酒を飲もう。気を取り直して「身欠ニシン」を注文したら、「身欠もないのです」と返ってきました。「あれっ、ニシンは豊漁じゃないの」と聞き返すと、「小振りなニシンばかりで、お店で使える品質じゃないので今はやめています」。驚いて顔の表情は身欠のように歪みます。

焼燗

 柳葉魚もニシンも他の店で食べようと思えば可能ですが、三四郎のお魚はちょっと比較にならないぐらいうまい。魚の品質もそうですが、焼き具合が巧み。日本酒を焼き場の熱でお燗した「焼燗」を飲みながら、ししゃもや身欠ニシンを食べるともう至福の時。酔いが違います。結局、注文したのは、どうしても身欠ニシンを食べたかったので「ニシン漬け」とホッケ。脂がのって味もしっかり感じるホッケの骨をボリボリかじりながら、焼燗を飲み続けました。

小三治さんの書も目当てでした

 目的の2つ目。落語家、柳家小三治さんの書です。小三治さんは独酌三四郎を「誰にも教えたくない店」として教えるほど贔屓にしていました。

 私が1年前の2022年1月に訪れ、カウンター席に座った目の前に「頑張ろう 柳家小三治」と毛筆で書かれた色紙が貼られていました。小三治さんは大学生の頃、新宿の末広亭でお聴きする機会を得てからはテレビなどで登場するとかならず拝聴するファンでした。とても残念でしたが2021年10月に突然お亡くなりました。それから3ヶ月後、三四郎で偶然目にしたのが「頑張ろう」でした。

 三四郎は、全国の居酒屋でも名店の評価を集めていましたが、コロナ禍などで厳しい時もあったはずです。「頑張ろう」に小三治さんの熱い思いを感じます。

 私自身、目にした時、簡潔な一言に身震いしました。一年前は写真を撮るのは失礼と思ったので諦めましたが、その後ずっと「頑張ろう」の文字が頭の隅に残影として刻み込まれてしまい、次回訪れたら撮影したいと考えていました。今回、「写真を撮影してもよいですか」と確認したら、「他のお客さんが写っていなければ構いませんよ」と許可していただきました。食器棚とガラス戸が味わい深い背景となって、小三治さんの書がさらに際立って映えています。良かった。

小三治さんの「頑張ろう」は自分自身にも

 酔いが回ったせいか、「頑張ろう」は、消える北海道の美味しいものにも通じると思い始めました。「柳葉魚」「身欠ニシン」だけではありません。2022年8月には、北海道北部の音威子府村の名産として知られた黒い蕎麦も消えました。

 小さい頃に育った函館市の代名詞であるイカも消えそうです。大不漁が続いたため、特産品としてイカを販売するのは諦めると聞きました。イカの代わりに豊漁が続く「ぶり」が新たな名産として登場していますが、毎朝「イガ〜、イガ〜」という売り声を聞いてイカを買い、身が透き通ったイカを食べるのが当たり前だっただけに、残念無念。寂しい思いだけです。

 小三治さんの「頑張ろう」を眺めながら、柳葉魚や身欠ニシン、イカが再び復活してほしいと祈念するしかありませんでした。「北海道のおいしい」が消え続けないよう、北海道のみなさん、頑張ってください。飲み食べ続けますから。

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