湾岸戦争以来の1㌦150円 投機か投資か貯蓄か 日銀に”成り行き”リスクも
1ドル146円台に突入しました。24年ぶりです。2022年初めに130円は近いとの記事を書きましたが、10ヶ月で146円に到達、年内150円も見えてきました。そうなると1990年8月以来32年ぶり。同年8月はイラクがクウェートに侵攻し、湾岸戦争が勃発。当時、電力・石油のエネルギーを担当する記者でしたから、イラク軍の戦車がクウェート国境を越える映像を見て慌てた記憶があります。ドル円相場はその後の2ヶ月半で28円高い123円まで上昇しました。乱高下する有事のドル円相場の一例です。今回は日銀も財務省もいつも通り沈黙を守っています。市場の流れに任せる「成り行き」を続くのでしょうか。
外貨預金の勧誘メールが相次ぐ
「好金利の外貨定期、米ドル1ヶ月物が年6%など」「柔軟な資産形成を、為替リンク預金」。1ドル140円台に突入してから銀行などから外貨預金を勧誘するメールが舞い込んできます。1ドルの価値が上がっていますから、相対的に価値が下がっている円からドルへ乗り換える提案はわかります。ただ、為替相場を的中できる人はこの世に誰もいません。145円でドル預金を増やしても、その後140円以下になるドル安円高が続けば、ドルから円へ換金する時は元金は目減りしています。
もっとも、2022年当初に110円台でドル預金を増額した人は、今はウハウハ?。米国FRBの相次ぐ異例の金利引き上げ幅も手伝って預金口座の金利も上昇しています。日本国内の金利の低さと比べれば、桁数が違うことに驚きます。為替差益と金利高のダブルの恩恵が被ってきますから、通帳を見るだけで儲かった気分になります。コロナ禍が収まったのを受けて海外旅行に出かければ、円安で割高になった現地のホテル代や食事代などもドルの預金口座から支払えば再び、得した気分を味わえます。
年初にドル預金していたら、ウハウハ?
もちろん、これは為替変動に翻弄される外貨預金のリスクを承知したうえでの話です。繰り返しになりますが、高金利を目当てに外貨預金口座を開設する人も多いでしょうが、たとえ現地通貨が増えたとしても円への換金時に金利による配当を加えても目減りしている場合もあります。要は目先の資金に余裕があり、為替相場の状況を見ながら換金や支払いを通じて外貨預金を楽しめる人がふさわしいのでしょう。
その視線でドル円相場を眺めてみます。146円台に突入して150円まで上昇する観測が現実味を増してきました。9月下旬の日銀の為替介入もあって150円に迫ったら、日銀が再度介入するとの見方もあって「投機筋はどう動くのか」といった声も広まっています。ドルと円を売買するラリーが始まるのでしょうか。
今のドル相場のリスクは投機レベルか
ここで疑問です。現在の為替相場を考えると「投機」という言葉がふさわしいのかどうか。10月初めて公表された米国の雇用統計をみると、雇用者数は26万人を超え、失業率も3・5%に改善。米国経済はFRBによる0・75%という高い幅の相次ぐ金利引き上げを飲み込む余裕をみせ、FRBの金利引き上げは続くとの見方が支配しています。米国以外の各国中央銀行も利上げに踏み切っていますが、日銀は利上げに動く気配はありません。誰がみても、米国含めて日本との金利格差は広がり、円安が持続する環境はまだ変わりそうもないと考えるのが自然です。
しかも、日銀が9月22日に実施した円買い・ドル売りの為替介入が見事に失敗しました。介入資金は3兆円規模といわれますが、140円台前半に進んだのは数日間で再び円安へ振れ、146円台にまで手が届いています。過去の為替相場を振り返れば中央銀行が単独で介入しても「焼け石に水」とまでは言いませんが、空降りになる可能性が大。為替相場が動く今が稼ぎ時と考えるトレーダーにとって日銀の介入は「背中にネギと鍋を背負った鴨」に映っているはずです。
来年の米国経済は相次ぐ高い利上げ幅の影響で減速するとの見方もあります。裏返せば、あと6ヶ月程度はドル高円安の基調は変わらず、そのうえドル預金の定期金利は相対的に高いまま。ロシアによるウクライナ侵攻の行方など予想できない波乱要因を見落とすわけにはいきませんが、ドル買い円売りは無謀な投機というよりは投資に近いと考えてもおかしくないでしょう。個人の視線に立てば、日本円でタンス預金するぐらいなら余裕資金を外貨預金に貯蓄する発想でしょうか。
外貨の運用リスクを忘れさせる現況こそがリスク
日銀・財務省は150円を目の前にした時、どう対応するのでしょうか。為替介入は十分に可能性がありますが、米国などが協調介入しなければ効果は期待薄です。今年から入っての日銀・財務省の沈黙ぶりや、財務相や財務官の「紋切り」なコメントを考えれば、効果的な口先介入も望み薄です。兆単位の介入資金を無駄にしないことを考えれば、市場用語の「成り行き」に従って模様眺めを続けるのでしょうか。
外貨といえばFXなどのイメージも重なって素人にはちょっと手を出せない資金運用と思われがちです。ところが、今はちょっとやってみるかと思ってくるから不思議です。外貨の運用リスクを忘れさせる雰囲気を醸し出しているのが日銀・財務省だとしたら、なんとも皮肉な話しです。そのリスクを常に念頭に置かざるを得ない柔軟で驚きを与える為替政策を期待しています。