COP30が後退へ 気候変動の迷路を彷徨う世界 脱炭素の努力はゼロしない!

 高い理想を掲げ、実現を目指す。人類は途方もなく長い歴史を振り返るまでもなく、平和に暮らす生活ために闘いよりも互いに話し合い、納得できることを実践することに努力する日々を送ってきました。何千年も前から広がる宗教も、宗派の違いはあっても隣人を尊重し、安全安心な関係を保つ姿勢を説いています。

気候変動の議論は後退

 でも、戦争は絶えません。地球上の人間は平和を求めているものの、世界各地で争いが消えず、多くの人命が失われています。むしろ、ロシアによるウクライナ侵攻が突きつける現実は、再び欧州を巻き込む戦争の恐怖すら覚えます。

 地球温暖化に伴う気候変動も、人類の歴史をそのままなぞっているかのようです。

 18世紀に始まった産業革命以降、生産活動で排出されるCO2など温室効果ガスによって地球の温度は上昇しています。1990年代まで温暖化とCO2などの排出量との因果関係を疑問視する意見は絶えませんでしたが、地球上のどこもかしこも異常気象、大雨や台風と続く過去にない災害に見舞われる惨状を目にすれば、地球環境の歯車が狂い始めていると感じざるを得ません。「フェイク」と捨て台詞を吐くのは簡単ですが、想像を超える気候災害は来年も襲ってくるのです。

 気候変動に対する取り組みを協議するCOP30が大きな成果を上げられずに閉幕したのも、納得です。

 産業革命以前の気温に比べ2度未満、できれば1・5度以下に抑える努力を追求しようーー30年前の1995年、ドイツで始まったCOPは毎年、地球温暖化の抑制に向けて議論を重ね、1997年の京都議定書、2015年のパリ協定と地球全体の合意形成に成功し、具体的な数値目標を設定する段階にまで辿り着きました。

先進国の楽観的な目論見は消える

 ところが、地球温暖化防止の数値目標が掲げられ、先進国、途上国それぞれが背負う努力が具体的になればなるほど先進国と途上国の利害は対立してしまいます。毎年開催するCOPの成果は見かけ上は前進していますが、閉幕予定日を迎えても先進国と途上国との対立は消えず、実質は足踏み、あるいは後退の繰り返し。

 ブラジルで開催したCOP30も後退したと言って良いでしょう。議長国のブラジルが主導して合意した森林保全の国際基金は、対立を招いた先進国が途上国を支援する資金援助方式を改め、新興国や途上国が資金拠出する新たな枠組みとして高く評価されますが、肝心の脱炭素対策は後退です。なにしろ合意文書には化石燃料からの脱却を目指す文言が見当たりません。

 COPは強い逆風の下、足元から揺らいでいます。脱炭素のカギを握る主要国のうち、2025年1月に復権したトランプ米大統領はパリ協定からの離脱を表明しており、COP30には代表団すら派遣していません。ロシアや産油国は議長国ブラジルが提案した温暖化防止の行程表に反対。太平洋の島嶼国など途上国が干ばつや洪水被害対策として援助増額を求め続けている資金支援についても議論は停滞したまま。参加国が提出しなければいけない2035年までの排出削減目標は4割もまだ提出していません。

「木を見て森見ず」ということわざがありますが、現状は「木も森も見ず」に近い後退です。理想と掲げた森林の風景を忘れてしまい、個別事業に目を奪われてどこに立っているのかさえ不明な森林の迷路を彷徨っているのです。

 COPスタート当初の1990年代、先進国は脱炭素など地球温暖化防止に関連する技術開発によって新たな事業創出を目論見、途上国への支援も念頭にした経済成長ビジョンを描いていました。言い換えれば、脱炭素と経済成長の両立は可能と踏んでいたのです。

 ところが、理想と現実はかけ離れていました。石油やガスの利権を握る産油国や多国籍資源開発会社は協力する姿勢を見せながらも、国際的な政治力を駆使して水面下で反対します。トランプ大統領の言動がその典型例。さらに東日本大震災による原発事故は日本ですら原発を安全運転できないとする危機感が広がり、脱炭素の切り札と目された原発の新増設をストップさせます。もう一つの切り札として期待された太陽光や風力など再生可能エネルギーは中国の太陽光発電の濫造によって世界の再エネ事業の採算が狂ってしまいます。

これまでの努力がゼロに?

 先進国と途上国の対立が火に油を注ぎます。温暖化による海面上昇の危機を叫ぶ島嶼国や途上国から膨大な資金援助を求められ、先進国の負担感は増すばかり。トランプ大統領を批判する欧州でさえ、気候変動対策に関して疲労感を覚えているようです。

 このまま深い森林の迷路に立ちすくんでしまえば、環境との戦争は激化するばかりです。これまでの努力を皆無、ゼロにしないためにも叡智を絞って迷路から抜け出す出口を探し出すしかありません。

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