• HOME
  • 記事
  • Net-ZERO economy
  • 円安は国内回帰を招くか④ マイクロンがエルピーダだったら、半導体は大儲けの幻を見る
 基盤

円安は国内回帰を招くか④ マイクロンがエルピーダだったら、半導体は大儲けの幻を見る

 今さら蒸し返しても!。こう言われるに違いない性懲りもない話を書きます。

 米半導体のマイクロンテクノロジーが広島県東広島市の工場で、世界最先端の「1ベータDRAMメモリー」の量産を開始しました。設計や高微細加工など研究・生産いずれにも最先端技術が必要とされる半導体です。このDRAMは1ビットあたりのコストを下げる一方で、メモリーを大容量化できるため、5Gや人工知能(AI)など今後の需要増が見込める分野に向けて販売します。

マイクロンの東広島工場は元エルピーダ

 日本政府は経済の安全保障戦略の一環として最先端の半導体開発・生産を助成する政策を進めており、総額6170億円を投入します。すでに世界最大の半導体受託製造会社の台湾・TSMCが熊本県で建設している工場に最大4760億円、東芝系のキオクシアホールディングスが三重県で進めている工場に最大929億円それぞれ助成することを決めています。マイクロンの東広島工場は3件目で、最大465億円が支払われます。1ベータDRAMの設備投資は約1400億円。3割以上が公的資金で賄われるのですから、マイクロンとしても今後の販売攻勢に力が入るでしょう。

目線を変えれば国内回帰

 相次ぐ半導体工場の新増設は、目線を変えれば国内回帰です。1980年代、世界のトップを走っていた日本の半導体メーカーは凋落してしまい、韓国や台湾、そして中国との設備投資競争に置いてきぼりされていたのですから。経済の安全保障戦略という名目があるにせよ、日本で最先端の半導体が生産されれば、研究開発や生産に従事する技術者らが増えるほか、部品調達などで他の産業にも技術移転などの好影響が波及します。国内投資も再び活発になります。

 もっとも、マイクロンの東広島工場は、もとはといえばエルピーダメモリ。日立製作所とNECのDRAM事業を統合して1999年に設立され、サムスン電子などに続く世界第3位のメーカーだった会社です。しかし、巨額投資が必須の半導体の設備投資競争に敗れ、2012年2月に会社更生法を適用して経営破綻。負債総額は4500億円。製造業の破綻としては過去最大でした。

 マイクロンは2013年7月、エルピーダを買収して東広島工場などを手に入れました。エルピーダの東広島工場は世界最高レベルの高微細加工技術を保有しており、経営破綻前に坂本幸雄社長は「設備投資資金さえあれば、サムスンに対抗できる」と悔しがっていたほどです。

韓国勢に敗れた一因に超円高も

 韓国勢に敗れた背景には資金力もありますが、超円高も足かせになりました。円ドル相場は2007年、124円でしたが、2011年には75円と史上最高値まで跳ね上がります。約4年間で50円近 くの急騰です。リーマン・ショックや東日本大震災などが重なり、止まらない超円高は日本の製造業に大打撃を与えます。エルピーダの経営再建も国が産業活力再生法や日本政策投資銀行などを活用し努力したのですが、結局は水泡に帰します。

マイクロン買収の秘策が成功していれば・・・

 ドル円相場は当面、130円〜150円台をうろうろするのでしょうか。経営危機の時、坂本社長は最後の切り札としてマイクロンを買収してサムスンに打ち勝つ秘策を抱えていましたが、白昼夢に終わりました。

 「たられば」無用は承知ですが、もしエルピーダがなんとか経営危機を切り抜けてマイクロンを買収していたら・・・。この円安で大儲けしていたでしょう。経済安保として何千億円もの助成金を台湾や米国の企業に支払うこともなく、同じ資金をエルピーダや東芝など日本の半導体メーカーに振り向ければ、日本の半導体は再び世界の舞台で活躍していたでしょう。

 性懲りもない話でした。

関連記事一覧