円安は国内回帰を招くか③さあスタートアップ、経団連も消えドル円の呪縛も忘れて

 ドル円相場は今、コロナ感染者数と並ぶ数字として日本中が注目しています。一喜一憂とまではいきませんが、目の前の消費者物価がどんどん上がっているだけに、円安、あるいは円高が1円どころか10円の幅で上下するのを見ていると、生活を脅かす日本経済の宿痾になってしまったかのようです。

ドル円相場は日本経済を強靭にしてきた

 しかし、ドル円相場の歴史を振り返ると、日本経済を強くする好機を与えてくれています。1971年7月、ニクソン米大統領による中国の電撃的な訪問と1ヶ月後のドルと金の兌換停止。2回のニクソン・ショックで円は360円の固定相場にサヨナラを告げ、変動相場へ移行。1985年9月のプラザ合意は、ドル円相場を激しい円高に追いやります。日本の企業は倒産を覚悟した苦境を何度も乗り越え、むしろ円高をばねに飛躍し、世界の経済大国の道を駆け上がったのでした。

自ら宿痾にしてしまう

 しかし、いつのまにかドル円相場は日本経済の宿痾になってしまいました。円高を弾き返すだけの力を失い、円安の恩恵を満喫する余裕も見当たりません。「失われた10年」あるいは「失われた15年」という常套句が定着したことからわかる通り、自らの改革意欲を忘れ去り、海外の政治経済など外部要因のせいだと嘆く意識が日本経済に蔓延します。これでは健康体でも病を直せません。

 宿痾は自ら招いたものです。直近のカーボンニュートラルも同じ。経団連の十倉会長が「黒船」「開国」と言葉を使ってカーボンニュートラル への対応を呼びかけている姿を見て、外圧による経営改革しかできない経団連、企業の惨状を知りました。

 ドル円相場の宿痾を治癒できない理由ははっきりしています。第二次大戦後、世界で勝ち抜く日本の企業は製造業がほとんど。ドル円相場にある時は助けられ、ある時は傷めつけられて強靭な輸出競争力を鍛えてきました。現在は残念ながら、体力はあっても改革できる自信がないのです。いや、むしろ改革が面倒なのかもしれません。

経団連の歴代会長出身企業は製造業の権化

 経団連はその象徴です。歴代会長の出身企業をみてください。電機、鉄鋼、電力、電力、化学など製造業の権化ばかり。楽天の三木谷浩史さんのようにサーバーエージェントなどと一緒に新経済連盟を結成して、日本経済の新しい波を広げる動きもありますが、いわゆるベンチャー企業、スタートアップの土壌は育ちません。結果、いつまでもドル円相場に右へ左へと揺さ振られ続けます。

 なぜスタートアップが次々と飛躍しないのか。ライブドア事件がきっかけだと口にするベンチャー企業の経営者がいます。2000年4月に東証マザーズに上場したライブドアは堀江貴文社長による球団やメディアなどの買収攻勢でインターネット時代の寵児と持て囃されました。しかし、買収案件はいずれも失敗、堀江社長は証券取引法違反容疑で逮捕される事件に発展します。

出る杭は打つの経営風土、ベンチャーの芽を断つ

 社会規範を守るのは大前提。ただ、日本経済界を握る実力者たちによるベンチャー潰しと勘違いするベンチャー企業の社長は少なくありませんでした。「あれがターニングポイント。出る杭を打て、これが日本の経営風土だと分かった」と嘆いていました。

 嘆くのは早い。日本の産業の懐は深いのです。自動車、電機で培った製造業の土壌に情報通信、コンピューター、半導体、インターネット、ロボットが続き、世界でもトップクラスのスタートアップが相次いで誕生しています。

ユーグレナはドル円に左右されない

 例えばユーグレナを見てください。微生物のミドリムシを使ってジェット燃料の代替となるSAFの実用化に成功しています。カーボンニュートラル に向けて航空機や自動車などの需要は計りしれない代替燃料です。少なくとも目先のドル円相場に左右される製品ではありません。

 補助ロボットの開発・実用化も先行しています。少子高齢化は日本だけではありません。欧米、アジアなどで介助・医療などの作業業務を補助・自動化する流れは加速しています。まだ種火のように小さいのですが、もっと熱く大きく炎が上がるエネルギーは十分にあります。

ドル円相場を忘れて成長に向かう企業を

 ドル円相場を忘れて成長路線を突っ走るスタートアップ企業が日本に当たり前のように育ち、世界へ飛翔していく日が来れば・・・。世界から日本へ生産や研究開発の拠点を移転する動きが湧き上がります。もちろん円安は追い風。高品質で最先端技術がふんだんに盛り込まれた製品が割安に輸出できるのですから。日本国内の製造業も様変わりします。

 その時、きっと経団連も新経済連盟も時代遅れの産物として床の間に飾られているでしょう。

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