環境経営の指標は誰のために インパクト指標が発する意図せざる衝撃
経団連が6月に会員企業に活用を呼びかけた「インパクト指標」を改めて読み返す機会ありました。経済・金融情報サービスのブルームバーグからのメールがきっかけでした。インパクト指標は経団連がESG、SDGsに関して企業と投資家の対話を深める”共通言語”として提唱しています。地球環境や社会の問題を解決をめざすESG・SDGsは世界の主要企業が積極的に取り組んでおり、日本でも経営戦略の一つにかならず数えられるようになりました。1通のメールから「地球環境と経営」をテーマにした指標について考えてみました。
環境経営を数値化する調査は会計事務所やシンクタンクが主力ビジネスに
企業経営がどう変革しているかを数値化する評価基準が数多く現れ、企業価値にも大きな影響を与え始めています。世界の大手会計事務所やシンクタンクが主力ビジネスに定め、調査方法やコンサルタントを提案していることからわかるはずです。ブルームバーグも同じです。しかし、原稿を描こうかと思い立った理由は、その指標に関する難解さです。
ブルームバーグの広報担当者には迷惑な話題でしょう。同じメディアとして勤務していた経験からいって「メールの内容はしっかりと書き込み、説明しているので、理解できないのは残念」と悲しい思いを覚えるかもしれません。ただ、正直、メールの内容はなかなか理解できません。話題の主力である経団連の「インパクト指標」を理解しなければ、メールを読み込めないのかと思い、経団連が6月に公表したインパクト指標に関する報告書も手にしました。こちらも難解。報告書をまとめたグループの皆さんの思いが強すぎるのか、多くの概念と言葉がごった煮状態になっているようです。自分自身、環境経営度調査を何度も実施した経験がありますので、筆者の思いは非常にわかります。
乱立する経営指標は袋小路に
袋小路に迷い込んでいるのです。環境、ESGなど立ち位置は明確です。意気込んで入り口からスタートしたのですが、数多くのテーマを数値化する作業を進めている間に出口のゴールにたどり着く前に背負うものが予想以上に増えてしまっています。途中で荷下ろしをしながら、軽快な経営指標に仕立てようとしたまでは良かったのですが、今度は歩く道すがら多くの利害関係者と対話を繰り返した結果、てんこ盛りの報告書と指標を胸に抱え、本来は誰で理解してもらうのかが不明となってしまったのです。出口を探す気力も失なったかもしれません。
世界の環境経営を数値化する指標は互いを差別化するためにも、独自の発想と視点から仕立てています。ビジネスとして成立させるためにも当然の試みです。この結果、指標を試算する方程式は複雑化し、パッと見て指標が試算される過程が専門外の人間には全く理解できません。経営の数値化は本来、見た目や感覚でわからない世界を「見える化」するのが目的です。ところが、数多くの「見える化」が目の前に披露されると、何をどう判断して良いのかわからなくなります。悲喜劇です。今の環境に関する指標の実情を表す一語ではないでしょうか。
環境は投資市場が250兆円?
経団連の「インパクト指標」は企業と投資家の意思疎通を改善して、新たな投資機会を踏み出すドアと位置付けています。目の前に眠っている潜在的な投資市場は250兆円と見積もっています。まさに眠れる財宝の山です。
しかし、忘れないでください。「環境」「ESG」という看板を「土地」に差し替えてください。1990年代のバブル経済崩壊がすぐに目に浮かびます。投資の名目が変わっただけと勘違いしたくありません。ESGやSDGsは、あくまでも地球環境や人間社会と経済成長を両立させるのが目的です。「強欲」と書いた看板を塗りつぶして「地球環境」と書き換えたから問題ないとの言い訳は十分です。
誰に説明することを忘れたかのよう
インパクト指標が暗示した衝撃は、経団連も意図したものではありません。知らず知らずのうちに迷い込んで正解を見失う数値分析の落とし穴です。環境問題、企業経営、それを見える化する調査やコンサルタント。誰に理解してもらうのか。この一点がすぐに見えなくなるのが「指標による見える化」の罠です。