節電・節ガスは耳に痛い言葉 ?政府はなぜ呼びかけない 将来に禍根を

 政府が電気料金の割引対策を検討しています。石油やLNG(液化天然ガス)の高騰を受けて、電力会社が2023年春以降、電気料金を引き上げるのは確実。すでに食料品など消費財の値上げが相次いでおり、一般家庭の生活は厳しさを増しています。電気代はほとんどの家庭が使用するものですから、支払い料金の抑制は分配の公平性として理解できます。

エネルギー価格の高騰は長期化しそう

 ただ、エネルギー価格の高騰は短期で終りそうもありません。長期的な視点に立って割引制度とともに、「節電・節ガス」を呼びかけるチャンスです。支持率低下に直面する岸田首相にとって、国民の耳に痛いことは発言できないと口を塞ぐのでしょうか。

 西村康稔経済産業相は10月中旬、電力を小売する会社を通じて支援する案を明らかにしています。政府から電気代を抑制する”補助金”を電力小売り会社に支給し、電力会社は一般家庭に請求する代金から割り引くイメージのようです。家庭の諸経費が増加しているなかで電気代の値上げ幅が抑えられれば、政府が講じる政策効果を家庭に直接伝えられます。

 家庭向け電気料金を抑える幅は未定で、制度設計は10月中にまとまるそうです。岸田首相は「来年春以降に一気に2〜3割の値上げとなる可能性がある」との考えを示していますから、2割程度の大幅値上げを吸収できる資金を投入するのでしょうか。

 当然ながら、電気代を抑制するなら、ガス代はどうするという議論も巻き起こります。日常生活でガスも不可欠です。肉や魚、野菜を煮たり焼いたり、あるいはお風呂のお湯を沸かしたり。与党公明党の山口那津男代表は岸田首相と会ってガス代の抑制策を求め、岸田首相も電気代、ガス代ともに対策を講じる考えを示しました。

30年間、年収は横ばい、物価上昇はまだまだ続く

 生活費の負担軽減は大歓迎です。諸物価の上昇に合わせて、賃金や年金の支給額が増えるわけがありません。とりわけ賃上げは長年、置いてきぼり状態。日本の年収はもう30年も横ばいのまま。

 一方、2021年から始まった世界の農産物の高騰に加え、22年2月のロシアによるウクライナ侵攻で石油・ガスも一気に上昇、身の回りの商品価格はあれよあれよと上がりっぱなしです。電気・ガス代の抑制策で少しはホッとします。

 しかし、抑制するために必要な国の財源はどこまで膨らむのか。メディアによると、経産省は電気に加えてガスの料金を抑制するならば莫大(ばくだい)な予算が必要になると指摘しており、歯止めが必要と強調しています。

 エネルギー価格の高騰が短期間で済むなら、今回の抑制策も効果的です。コロナ禍の収束が見え、経済活動が復活。個人消費も回復する矢先です。生活費の支援策は、日本経済全体にプラスに働きます。

 残念ながら、エネルギーの高騰は長期化しそうです。ロシアによるウクライナ侵攻がどういう結末に終わるのか全く予想できませんが、近い将来、世界の石油・ガスの需給が再び侵攻前の状況に戻るとは思えません。

世界の需給は厳しいまま?

 まずロシア産石油・ガスの最大の顧客である欧州が再び、ロシアから以前と同じレベルで調達するかどうか。ロシアの軍事資金は石油・ガスの販売に大きく頼っています。仮に欧州によるロシア産石油・ガスの購入が戻ったとしても、再び欧州を危機に陥れる恐れがあるロシアに対しエネルギー購入を通じて大量の資金を与えるわけがありません。行き先を失ったロシア産の資源は中国やインドなどに向かいますが、世界のエネルギー価格を引き下げる効果がどこまであるのか。

 中東産油国の態度も気にかかります。直近の石油・ガスの高騰を受けて米国のバイデン 大統領はサウジアラビアに対し増産を求めましたが、10月中旬に開催されたOPECプラスの会合は大幅な減産を決定しました。石油生産国の思惑は複雑怪奇で、内実は正確にはわかりません。ただ、石油などエネルギー価格の高騰は産油国にとってプラス。国際政治の駆け引きとして重要な材料です。エネルギー需給が不安定な方が交渉は優位に進められるだけに、当面は現状を変える決断を下すとは思えません。

ドイツは20%、EUは15%の節減を求める

 将来の先行きを肌身で感じているのがドイツはじめ欧州各国です。ドイツ政府は家庭や企業に対して、ガスの使用量を少なくとも20%節約しなければ冬を超えせないと警告を発しています。ドイツは太陽光など再生可能エネルギーの利用を拡大していますが、太陽光発電が低下する冬はロシア産ガスに依存しています。

 もちろん、ドイツ以外の国も事情は変わらず、欧州連合(EU)は各国に15%の節減を求めています。欧州は各国で電力の融通システムを構築しており、電力危機への対応力がありますが、それでも大幅な節電・節ガスを実行せざるを得ません。

 日本は欧州よりもエネルギー小国です。四方を海に囲まれ、電力融通もままならないのが現実です。最も近い天然ガスの調達先はサハリンでしたが、ロシア政府によって資源会社の経営の主導権は奪われています。

資源小国日本ができること、まずは省エネ

 電気代やガス代が高いと嘆くのが1年程度なら、がまんできるかもしれません。それが果てしなく続くとなるなら、自らできることを実行して乗り越えるしかありません。資源小国日本です。かつての石油ショックを思い起こし、当時のように国の基本、発想を転換し、「省エネ大国」を再びめざしてはどうでしょうか。まずは「節電節ガス」から。

関連記事一覧

PAGE TOP