電気料金高騰が告げる警鐘とは、英誌が欧州の健康危機、政治経済の争乱を予測
「電気料金が10%値上がりすると、死亡率は0・6%上昇する」
エコノミストが独自モデルで試算
英国の経済誌エコノミストが大胆な予測記事を掲載しています。ロシアのプーチン大統領が石油・ガスの資源エネルギーを武器として使用しています。この戦略がどのような影響をもたらすのか。同誌のデータ解析を専門とする記者たちがウクライナ国外での死傷者数がどの程度に及ぶかを試算しました。欧州226地域それぞれで冬季中、1週間あたり何人死亡するかを予想する統計モデルを作ったのです。
その結果が電気代が10%上昇すれば、死亡者は老人と幼児を中心に0・6%増えるーー電気代など諸情勢が変わる可能性がありますから、予想通りになるわけではありません。ただ、電気代高騰を起因とする死亡者数は、これまでのロシアとウクライによる戦闘で死亡した兵士たちの数を上回るとみています。戦闘では弾丸、爆弾、ミサイル、ドローンなどが使用されますが、ウクライナ以外の欧州地域では電気代の高騰で予想以上に大きな被害がもたらされるかもしれません。
世界の経済・政治を切り取る力にはいつも敬意を
エコノミストは創刊が1843年。来年の2023年で180年を迎え、独特の視線で世界の経済や政治を切り取る記事は高く評価されています。マクドナルドのハンバーグの価格で国の購買力を比較するマック指数などユニークな経済指標を作成することでも知られています。同誌だからこそ、電気代の高騰が欧州の死亡者をどの程度増やすのかを試算し、危機的な状況に向かう世界の政治・経済に警鐘を鳴らすことができるのでしょう。
日本でも電気代は値上げラッシュ
日本でも電気代が物凄い水準で高騰し始めます。
東北電力が11月24日、家庭向けの規制料金を来年4月から平均32・94%値上げすることを経済産業省に申請しました。ロシアのウクライナ侵攻後、国の認可が必要な規制料金の値上げ申請は初めてです。東京、北陸、中国、四国、沖縄の5電力会社も近く値上げを申請します。2011年の東日本大震災後、原発の停止で大幅な赤字に陥った電力各社は2012年から15年まで規制料金を値上げしているので、8年ぶりです。東北電力の値上げ対象は全体の8割近い528万件。平均的な家庭で2717円増えるそうです。
政府は電力各社に値上げに対応するため、来春から電気代とガス代を補助する制度を設けました。これでも値上がり幅は1000円近くなるそうです。毎月ですから、痛手です。しかも、電気代のみならずあらゆる物価が半端ない水準で値上がりします。
鵜呑みするつもりはないが、警鐘には耳を傾けたい
英エコノミスト誌の試算を鵜呑みにするつもりは全くありません。しかし、あえて掲載して警鐘を鳴らした姿勢には敬意を表したい。目の前のエネルギー危機が2023年中に終わるのかどうか。だれも予測できません。電気代の高騰に伴い暖房を控え寒さを我慢した結果、健康を害する人は欧州でも日本でも増えるかもしれません。我慢が短期間で終わればまだ良いのですが、長期化したら・・・
一方で地球環境の温暖化をストップさせるため、化石燃料を減らす努力を世界中で取り組んでいます。こちらも、「しかし」です。石油・ガスの高騰で安価に手に入る石炭を使用する火力発電所を再び増やす動きが広がっています。戦争による混乱は世界中に広がり、気候変動への対応も遅れが生じるかもしれません。東北電力の料金引き上げ申請は、世界がこれから直面する不安と危機が訪れる警鐘として日本も自覚するよう告げているようです。