党利党略で闘った仏選挙、無党で闘った都知事選、政治の躍動感はどっち?

 7月7日、とても対照的な選挙がありました。フランスの下院選と東京都知事選。国政と地方自治を比較するなんて無茶!。十分承知していますが、あまりにも対極でした。フランス下院は極左と中道が極右を引き摺り下ろす党利党略が成功。都知事選は政党色を無に薄め、現職が3選。民主主義にとって政党は重要な役割を担いますが、一方は政党で勝敗を決し、もう一方は政党を消し去って勝ち残りました。候補者を選ぶ投票者からみれば、どっちが楽しんだろう?

仏は左派、中道、極右が駆け引き

 フランスの下院選挙は7月7日、左派連合「新人民戦線」が第1党の座を確実に固め、続いてマクロン大統領が率いる与党連合、極右政党「国民連合」が第3党となりました。下院は定数577で、過半数を占める政党はなく、次の焦点は連立政権がどのような形になるかです。現職のアタル首相は辞任を表明、次期首相は左派連合が軸になるのでしょうが、落とし所は見えていません。

 下院選挙は2回の選挙を重ねて議席を決定する仕組みです。6月30日に第1回の投開票が実施され、極右「国民連合」がトップに立ち、過半数を占める勢いを見せました。極右の台頭を抑えるため、左派連合と与党連合は選挙区での競合を避け、候補者を一本化。これが第2回目の選挙で功を奏し、極右「国民連合」を第3党にまで落とし込むことに成功しました。

マクロン大統領は賭けに成功?

 下院選はマクロン大統領が6月9日夜、突然発表しました。欧州議会選挙の結果で極右「国民連合」がフランスで大勝する見通しが明らかになったため、極右の台頭を恐れたフランス有権者の支持を改めて取り込む狙いでした。自らの与党連合は第1回目の投票で大きく後退しましたが、第2回目では第2党にまで復活。下院第1党の地位を失ったとはいえ、「肉を切らせて骨を断つ」を実践するマクロン大統領の賭けは成功したといって良いでしょう。

 政党としての理念が異なる左派連合と与党連合が手を組んで極右を切る。「小異を捨てて大同につく」という故事に習うといったら、怒られると思いますが、政治の世界は選挙の勝利がすべてを導きます。建前と本音を巧みに使い分ける欧州のしたたかさを改めて痛感しました。

都知事選はネット、無党派層が決め手

 都知事選はどうでしょうか。過去最多の56人が立候補した東京都知事選は7日投開票され、現職の小池百合子都知事が3選しました。選挙戦略の基本は党派の色合いを極力抑えること。小池知事は自民党が派閥の政治資金規正法違反事件で大ききな批判を浴びていることもあって、岸田政権与党の自民党と公明党に対し自主的な支援にとどめもらい、街頭演説やポスターでも表立った支援は抑えました。既存政党に頼らない都政をリードする姿勢を強調し、無党派層も取り込みました。

 第2位に躍進した石丸伸二氏も同じ。広島県安芸高田市の市長を辞職して立候補しましたが、どこの政党の支援を受けずに選挙戦を展開。「完全無所属」を訴え、若者らが重視するSNSでの発信を巧みに使いこなし、無党派層から多くの支持を集めました。これが当初は小池知事に次いで有力候補とみられていた蓮舫氏を抜き去る原動力となりました。

 予想に反して第3位に沈んだ蓮舫氏は「政党」が自縄自縛となり、無党派層の取り込みに失敗しました。参院議員として所属した立憲民主党を離党し、無所属で臨んだものの、選挙戦略は反自民を前面に出して自民の支援を受ける小池都知事を追い上げる構図。それが支持層拡大に失敗し、現職知事を追い上げるどころか失速を招き、安芸高田市長時代からYouTubeなどのネットで人気を集めていた石丸氏に抜き去られてしまいます。

石丸氏は市長時代の実績よりもネット拡散を味方に

 実は7月7日は、石丸伸二氏が市長を務めた安芸高田市長選も投開票され、石丸市政の転換を訴えた藤本悦志氏が当選しました。石丸市長は市議会での激しい言動、YouTubeを使った拡散などで全国でも個性的な政治家として知られていましたが、地元では市議会との激しい対立が続いていました。藤本氏は石丸市政について「市議会や市民との対話が少ない」と批判し、地域の対立と分断を招いたとして市政の刷新を訴えました。皮肉にも、石丸氏が小池都知事の都政を批判した指摘とほぼ同じ内容です。

 都知事選は過去最高の56人が立候補しましたが、現職知事以外はネットでの情報拡散によって無党派層をどのように取り込むかが決め手でした。石丸氏の場合、市長時代の実績・評価はどこかに置き去りにされ、ネットで拡散する政策やパフォーマンスが投票する判断基準になってしまいました。知事選で小池都知事に次ぐ165万を超える票を獲得しましたが、政治家としての力量よりも人気投票に近いものではないでしょうか。

 対照的に、蓮舫氏は立憲民主時代の「なぜ2番ではダメなのですか」のフレーズに囚われたまま。ネットによる自身の新たなイメージ拡散に失敗し、既存政党、無党派層いずれの有権者も過去の政治家として認識していたのです。

民主主義がより健全に、強靭化するのはどちら?

 フランスと東京都の選挙比較に無理があるのはわかっています。ただ、フランスの場合、政党がこれまで有権者に提示した政策が本当に実行されたのかどうかも含めて、投票するかどうかが判断基準になります。とりわけ左派連合、極右それぞれ政策の内容は大きく異なります。東京都の場合、立候補者はそれぞれ政策を掲げていますが、実際は現職以外はネットの拡散頼みのイメージだけで選択するしかありませんでした。

 有権者にとって、どちらが有益なのでしょうか。日本も年内に総選挙、来年は参院選が待ち構えています。民主主義をより健全に、強靭にするためには、政党をどう捉え、どんな選挙が適しているのでしょうか。政治学者の皆さんの意見もお聞きしたい。

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