電事連「ご質問にお答えします」志賀原発と地震の疑問にどんどん答えて

 電気事業者連合会が「能登半島地震による各原子力発電所への影響について」というサイトを特設しました。能登地方の志賀町に立地する北陸電力の志賀原子力発電所を巡る安全性に対する不安が広がっているため、電力会社が参加する電事連が北陸電力と協力し、さまざま質問や不安に応える内容となっています。実際には幅広い分野にわたって数多くの質問・疑問があると思いますが、最大公約数にまとめて19項目を掲載しています。

地震直後、情報は錯綜

 まずは事実関係から。能登半島地震は最大震度7を記録し、1号機の原子炉建屋地下2階で震度5強相当の揺れを観測しました。志賀原発は1号機、2号機ともに2011年の東日本大震災以来、運転を停止しています。地震の影響で外部から電気を受けるための変圧器が壊れ、3系統5回線ある送電線のうち1系統2回線が使えなくなりました。

 地震が発生した当初、情報は錯綜しました。北陸電力は変圧器が壊れた際に消火設備が作動したことや「爆発したような音と焦げ臭い匂いがあった」とする情報を原子力規制庁に報告しました。地震当日の1月1日午後7時ごろ、政府の林官房長官は緊急の記者会見のなかで「志賀原子力発電所では、変圧器の火災が発生したが、消火済みでありプラントに影響はない」などと述べています。その後、北陸電力は現場調査をした結果として「火災はなかった」と発表しました。

 2号機の変圧器が壊れたことで漏れ出た油の量についても、北陸電力は当初、およそ3500リットルと発表していましたが、5倍以上のおよそ1万9800リットルだったと訂正しました。津波についても、北陸電力1月2日の記者会見で「水位を監視していたものの、有意な変化は確認されなかった」と発表しましたが、夜になって、敷地内に設置していた水位計で3メートルの水位上昇が確認されていたと訂正しました。

規制委員会「まだまだ努力してほしい」

 情報に混乱があったことについて北陸電力は、社内で適切な情報連携がとれていなかったことが原因だったとしています。原子力規制委員会の山中伸介委員長は1月10日の会見で「緊急時の情報発信は難しいところがあるが、情報共有のあり方は福島第一原発事故の大きな教訓だ。今回の対応には不十分な部分もあり、まだまだ努力してほしい」と北陸電力に改善を求めています。

 地震直後の混乱は避けられません。訂正が繰り返されたことは残念ですが、状況を正確に把握して対応することが最も重要なことです。ただ、情報はその後に訂正されたとしても、当初の情報が独り歩きして拡散することが多いですし、それに伴い尾鰭がつき、誤解を招く情報に変容してしまうこともあります。幸いにも大きな被害に至らなかったのは良かったですが、改めて情報発信に対する反省と教訓が炙り出されました。

安全神話は崩れた今、信頼回復へより積極的に

 電事連のサイトを見ると依然、過去の原発に関する情報発信の発想が踏襲されているように感じます。それは「原発は安全だ」という一点を強調することです。政府や電力会社が1970年代から繰り返し謳っていた「安全神話」は東日本大震災の東京電力の福島第一原発事故によって脆くも崩れました。日本のみならず、世界の人たちも原発の安全性を再び問い始めています。ドイツなどは、「日本でさえ安全管理できないのだから」と従来の原発推進政策を転換、原発ゼロへ政策を進めています。

 今回の反省と教訓は、原発の安全性を繰り返し説明しても国民の目は不安と疑問のまま。原発の仕組み自体が理解し難いこともあって、漠然とした不安は消えません。こうした多くの国民の視線を改めて感じて積極的に原発の安全性を訴える努力が必要です。それは今後、予想し難い事態に直面しても、「安全性は担保できるのだ」という最悪に備えて安全対策を次々と更新し、確実性を高めていることを説明することです。

 例えば、志賀原発は直下型地震に見舞われていませんが、あれだけ震源地と原発が近いと、直下型を想定するのは非現実だと一蹴することはできません。元々、原発は直下型地震の可能性がある地域に建設しないが前提です。電力会社から見れば、国の定める基準を全て認証されて建設した原発ですから、ありえないことを前提に説明しろというのは不合理と思うでしょう。しかし、志賀原発は、ありえないことがありえるかもしれないという事実を見せつけました。

「不安がない」と強調するだけでは

 サイトに掲載された電事連の一問一答を見ていると、質問に対する疑問について、結論は「不安はありません」を繰り返すだけの印象を受けます。下記はサイトから質疑応答の項目を引用したものです。現時点で不安を払拭することが最優先と考えるのも理解できます。

 繰り返しになりますが、原発の信頼性を取り戻すことは「原発に不安はない」と説明することではありません。「もし、不安や不備があれば、こう解決する」という具体的な説明と姿勢を明確に示すことです。東日本大震災後、テロ対策などセキュリティーにも厳しい管理責任が問われていますが、東京電力でその信頼を裏切る不正行為が続きました。台湾有事など国際情勢の緊迫から原発の安全管理は一段と厳しい視線にさられています。100%の安全性を保証するのは不可能でしょう。

 しかし、万が一の事態に遭遇しても、危険性や事故を最低限に留める対策と努力を明示することが今、最も求められています。電力業界は理解が不足しているから説明するのだという認識を捨ててください。批判や不安に対して受け身にならず、もっと積極的に、能動的に、そしてわかりやすく情報発信したらどうでしょうか。かつて東京電力の副社長は「さまざまな批判が原発の安全性を高める」と断言しました。今でも、その通りと考えています。電力業界は原発の安全性に取り組む姿勢と同様に、あらゆる批判に答え、改善する姿勢をわかりやすく提示して欲しいです。

質疑応答の事例

能登半島地震により「志賀原子力発電所が外部電源の一部を失っている」との情報があるので不安です。

志賀原子力発電所の2号機主変圧器が使用できないことや、外部電源の供給元である中能登変電所のガス絶縁開閉装置(GIS)に一部損傷があることから、志賀原子力発電所への外部電源5回線のうち2回線(志賀中能登線2回線)が使用できない状態にありますが、3回線(志賀原子力線1号線、志賀原子力線2号線、赤住線)が使用可能です(2024年1月11日現在)。

 また、非常用の電源として、非常用ディーゼル発電機、大容量電源車及び高圧電源車が利用できる状態で確保されており、使用済燃料の冷却等の原子力発電所の安全性は維持することができます。

「志賀1号機で957ガル、志賀2号機で871ガルの加速度が確認された」との情報があり、これまで北陸電力が公表していた最大値399ガルを大きく超えていることから不安です。

北陸電力が公表していた最大値399ガルは、原子力発電所の施設への影響を速やかに把握するために観測している、原子炉建屋の「地盤の揺れ」の大きさです。
一方、志賀1号機で観測された957ガル、志賀2号機で観測された871ガルは、「地盤の揺れ」を受けた「設備の揺れ」の大きさであり、ごく一部の周期帯において観測されたものです。そのため、原子炉建屋の「地盤の揺れ」の大きさである399ガルと単純に比較することはできません。
また、957ガル、871ガルの揺れを観測した周期帯に、原子力発電所に求められる「止める・冷やす・閉じ込める」の機能を有するための設備はなく、原子力発電所の安全性に影響はありません。
なお、新規制基準に基づき、再稼働が行われるまでには更なる耐震強化対策が図られるものと考えております。

 電事連のサイトはこちらから

https://www.fepc.or.jp/sp/notojishin/

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