紋別には巨大なカニの爪のオブジェ

ダメ元ですが「ふるさと納税の廃止を」返礼品の特売で地方は再生できるのか

 ふるさと納税は制度として歪みが広がり、本来の趣旨から脱線してしまったようです。納税を「寄付」と差し替え、納税者が応援したい自治体に寄付、その自治体からの返礼品を受け取る仕組みですが、もともと公共サービスの設計として無理があります。寄付金の増額をめざして自治体は返礼品を”豪華”に仕立て、納税者も返礼品目当てに寄付する自治体を選び始めます。税金を納める感覚がどんどん消えてしまい、「税を支払う辛さと大事さ」を忘れさせてしまいます。

市場の拡大で仲介サイトも過熱

 だからでしょう、関連ビジネスとして返礼品の販売支援を目的にした民間の仲介サービスが相次いで誕生。本来ならあってはならない自治体同士の競い合いに拍車がかかり、税金の争奪戦がどんどん過熱化します。納税行為がニュービジネスを創出するとは予想できませんでした。まるで「ふるさと納税市場」と呼ぶスーパーの店頭で特売セールを目撃している気分です。

 あまりの過熱感に総務省は6月、ふるさと納税制度で納税者と自治体を仲介するサイトが寄付に対し付与する独自ポイントを禁止する方針を明らかにしました。ふるさと納税熱を冷やすのが目的です。といっても、禁止の開始時期は1年以上も後の2025年10月から。今年のふるさと納税商戦はかなり熱くなるのは確実です。

 すでに通常の電子商取引と同じ延長線上にあるのです。納税者は自治体を選んで寄付する形式で始まりましたが、自治体同士の激しい競争により仲介サイトに支払う手数料を上積みして納税者を取り込む商法が一気に広まっています。仲介サイトは利用者に対し寄付額に応じてポイントを付与するので、利用者は返礼品とは別に新たな特典を得る目的で仲介サイトを選ぶのは当然です。楽天市場などのポイント付与を骨子にしたビジネスモデルそのままです。納税行為が電子商取引と同じで良いわけがありません。

コンビニでの公共料金の支払いと違う

 もっとも、まだポイント付与の特典は生き残ります。寄付金をクレジットカードで支払った場合、カード会社が付与しているポイントなどは禁止しないそうです。不思議です。

 コンビニで公共料金を支払った経験がありますか。クレジットカードやPayPayなどバーコード決済は使えず、現金で支払うしかありません。コンビニやクレジットカードの独自ポイントは獲得できません。それがどうしてふるさと納税なら、クレジットカード払いが可能で、ポイントを獲得できるのか。公共料金と納税は別物?。

企業版は通常の販売促進じゃない?

 ふるさと納税にはまだ首を傾げる制度があります。2016年に始まった企業版です。企業が創業地や工場立地自治体を支援する流れを想定していましたが、最近は販売促進や企業戦略の一環としか思えない寄付が目につきます。アサヒビールは各地の祭りや花火を支援するため、5自治体に計5000万円の寄付を公募しましたが、花火大会などイベントで飲料メーカーなどがスポンサーになる通常の販売促進策とどこが違うのでしょうか。

 大東建託はもっと不思議です。2024年度に総額1億円以上を寄付する方針で、防災や循環型社会、高齢化対策、移住支援などに関わる自治体の事業が対象。事業内容、自治体の賃貸戸数などを基に評価し、寄付先を決めるそうですが、大東建託は不動産、賃貸アパートなどを主力事業。ふるさと納税制度に従っているとはいえ、通常の不動産事業そのものです。

紋別は予算の3割近くを占める

 ふるさと納税は2022年度で受入件数は約5184万件、総額は約9654億円となり、1兆円に迫る勢いです。とても大きな税制度といえます。自治体にとても頼りになる財源となっており、北海道は全国の都道府県で1位を占め続け、自治体別でも上位を占めています。例えば、紋別市は一般会計の総額は368億円ですが、ふるさと納税による歳入を100億円と見込んでいます。防災や医療の充実に使われます。ふるさと納税制度無しでは予算編成できないでしょう。

 しかし、ふるさと納税はあくまでも納税者にとって一部の税金。返礼品をもらって得した感を味わうことができるかもしれませんが、税金は本来、自らが住んでいる自治体の行政、社会福祉などを支える財源です。首長はじめ行政が住民の要望を汲み取り、街づくり、福祉の充実に取り組んでいるのか。無駄使いをしていないのか。税金を納めているからこそ、本気で監視する気持ちになります。

納税意識、行政を監視する視線が鈍る

 税金の支払いは決して楽しいことではありませんが、痛い思いを忘れずに行政、予算執行を厳しく見つめる視線を保つエネルギーになると思います。ふるさと納税が1兆円を超え、その存在感が大きくなればなるほど納税意識は薄れ、「割安に手に入る返礼品はどこの自治体にあるのか」が主目的になりそうです。総務省、財務省の官僚はすでにわかっているはずです。自民党の菅元首相が創設者ですから、即禁止できないのは重々承知していますが、そろそろ終幕のシナリオを描き始める時ではないでしょうか。

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