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「石油1ℓは血の1ℓ」日本が改めて問われるカーボンニュートラルへの覚悟

  • 1990年8月2日、イラクがクウェートに侵攻しました。イラクとクウェート両国で石油利権などを巡る緊張関係がかなり高まっていましたが、まさかクウェート侵攻はあり得ないと世界は考えていました。当時、私はちょうど石油や原子力などエネルギー産業を中心に取材するチームのキャップを務めていました。イラクが侵攻に向けて軍を配置しているとの情報を聞いていましたが、万が一侵攻するとしてもまだまだ時間があるだろうと楽観。8月2日は北海道の泊原子力発電所を取材に訪れていました。原発の取材を終えて泊村から札幌市へ向かうタクシーの中でした。イラク軍がクウェート国境を越えて侵攻したとのニュースを聞きました。湾岸戦争の始まりです。

湾岸戦争の時、米国シェルの役員がランチで言い放った言葉

「石油の1リットルは血の1リットルなんだよ。日本人は金で買えると勘違いしているんじゃないか」。場所は確かテキサス州ヒューストン。米国シェルの経営幹部らとランチを共にしている時、突然、強い口調で言われたのでした。英語が得意じゃありませんから、「ウッ」と思わず息が詰まったのを覚えています。それが幸いなのか災いしたのかどうか、うまく返答できないまま話題が切り替わり、ランチの雰囲気を壊さずに時間が過ぎました。しかし、目の前にある赤いワインのグラスを眺めながら、かなり複雑な心境だったのを忘れられません。

イラク、米英を軸にした多国籍軍の戦闘が始まろうとしている時期、カナダ・米国に出張して石油など資源開発、いわゆるメジャーなどを取材しました。日本は憲法上の制約で自衛隊派遣など直接的な戦闘行為が許されません。多国籍軍には総計135億ドルの資金援助をすることで”貢献”する形なったのですが、米国では「金を出せば、良いと思っているのか」との世論が高まっていました。当時の出張では幸いにもモービル、エクソンなど世界の資源開発を握る石油メジャーの経営トップにお会いすることができ、とりわけモービルの会長は大統領の外交委員会のメンバーでもあり、中近東だけなく石油・天然ガスなど世界のエネルギーに対するメジャーの生の声を聞くことができました。ただ、日本に対する姿勢は資源開発のパートナーとはみなしておらず、製品を販売する”お客さん”です。直接的な批判は出ません。

これに対して当時の米国シェルは石油メジャーのロイヤルダッチ・シェルの子会社とはいえ、独立性を認められており、エクソンやモービルのような大人の対応をする気持ちがありません。むしろとても率直な気持ちを持って、日本の中近東、エネルギー資源開発に関する姿勢、戦略の無さをアドバイスしてされました。その思いのたけを表現したのが「石油の1リットルは血の1リットル」です。この発言の前まで彼は日本の憲法の制約は理解している。だから資金援助による貢献という手段を選ぶのもわかる。そして、この発言でした。日本政府はお金を払えば目の前の問題処理を終えてしまったかのような誤解を国民に伝えているのではないか、と私は受け止めました。話の流れから非難しているわけではないことはわかっていたのですが、とても直截的な表現だったので当惑したのは事実です。

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