日の丸半導体にYOSHIKIはいるか アベンジャーズか呉越同舟か

 「アベンジャーズみたいなものと思っていただければ」「最後の人生をかけて世界をロックしていきたい」

 11月11日、「ザ・ラスト・ロックスターズ」が誕生した。メンバーは「XJAPAN」のYOSHIKI、「Ayc~en~Ciel」のHYDEら4人が記者会見を開き、新しいバンド結成を宣言しました。YOSHIKIとXJAPANは大ヒットを放って世界の音楽界を沸かせ、他の3人もその実力は説明不要。4人はこれまでのバンドの枠を超えて結集し、世界を舞台に「ひと暴れしたい」と抱負を語ります。来年から東京や米国でコンサートを開き、「世界を取る」とYOSHIKIはその覚悟を表します。

半導体でもラスト・ロックスターズ

 同じ日。半導体の世界でも、アベンジャーズをめざす発表がありました。メンバーは世界の企業が揃い、設立の狙いもフレーズも同じ。「最後のチャンス」。

 トヨタ自動車やNTTなど8社は共同出資で半導体を設計、生産する「Rapidus」(ラピダス)を設立します。5年後には次世代半導体を世に送り出す計画です。新会社の小池淳義社長は「日本の半導体は20年近く遅れている。これが最後のチャンスだ」と強調しました。

 出資企業はトヨタ、NTTのほかにソニーグループ、ソフトバンク、デンソー、キオクシア、NEC、三菱UFJ銀行が続き、政府も研究開発拠点の整備などに約700億円を助成します。ヒーロー、ヒロインが力を合わせて強敵を打ち倒す米国映画「アベンジャーズ」の主役を演じるメンバーにふさわしいビッグネームばかりです。

産業界のビッグネームがずらり

 会長は半導体製造装置の東京エレクトロンで社長、会長を務めた東哲郎氏、社長は日立製作所、米半導体大手のウエスタンデジタル日本法人を経験した小池氏がそれぞれ就任しました。新会社は回路の線幅2ナノ(ナノは10億分の1)メートルという高精細な半導体回路の生産能力を開発し、量産するのが目的で、トヨタやソニーなど半導体のユーザーから開発・生産するメーカーまで参加することで開発・生産スピードを高めることが期待されています。

 背景には半導体など最先端技術の安全保障戦略があります。半導体の開発・生産は1980年代、日本が世界トップを走り、2000年代まではエルピーダー・メモリーが高精細回路の生産技術でトップクラスの地位を守っていました。しかし、今や生産の大半は台湾が握り、国家プロジェクトとして推進する中国が急追するのが現状です。

 産業のコメと呼ばれる半導体の需要は自動運転や人工知能(AI)など大量のデータを瞬時に処理する分野で急増するのが確実。ところが、日本の半導体は産業政策の稚拙さから世界のトップの座を降りてからずるずると力を失い、開発も生産も海外に大きく依存する情けない構造に陥っています。

再び世界の舞台に躍り出るために結集

 世界に追いつき、追い越すためには、最後の切り札「日本のアベンジャーズ」を結成する必要がありました。しかし、残念なことに半導体の日の丸プロジェクトは惨敗の歴史です。1970年代の超LSIプロジェクトは成功したものの、その後は頓挫が続きます。素晴らしいアイデアを持ち、最先端技術を開発したとしても、その成果を事業化できる仕組みが欠けていました。

 国家プロジェクトに集まった天才的なアイデアを持った人材は、出向先に戻っても事業化できず、米国のように起業もできません。半導体事業は東芝、日立製作所、三菱電機など総合電機にとってひとつの事業に過ぎず、開発・生産に必要な巨額投資の経営判断を下せません。

 これに対して日本の技術を学び、追撃するサムスングループはオーナー経営のもと賭けともいえる巨額投資に打って出て、日本に追いつき、追い抜いて行きました。そして台湾が韓国を追い抜き、中国が追随します。

 かつてマイコンを開発するなど世界をリードした日本の研究開発部門はスマートフォンや自動化などの技術革新の波に乗れず、代わりに欧米のベンチャーが世界を席巻し、日本は置いてきぼりです。

過去の失敗から学ぶのは強いリーダーシップ

 過去の日の丸プロジェクトから学ぶ教訓はただ一つ。強いリーダーシップを発揮するのは誰か。政府が多額の助成金を投入するからといって政府主導なら失敗するのは明らか。企業の経営判断も遅過ぎます。例えば半導体事業を総合電機の一部門から分離して世界と競合できる体制に切り替えるため、協議を開始してからエルピーダなど統合会社が誕生するまで10年ほどの時間がかかりました。欧米や韓国、台湾はもう日本と並び、追いつく寸前にまで到達していました。

 今回のラピーダは会長にエレクトロン、社長に日立や米国半導体の経営者が就任しています。経営トップを半導体の専門家で占めたとはいえ、国、トヨタ、NTTなどユーザーの圧力に抗して経営判断できるのでしょうか。

 XJAPANのYOSHIKIは世界のエンターテイメントで活躍し、今もそのカリスマ性は生きています。残念ながら、日本の半導体にはカリスマは見当たりません。過去の教訓を乗り越え、日本の半導体が世界の舞台に再び躍り出るのか。

 舞台を見上げる座席から期待していますが、脚本通りに主役と演出家が本来の力を発揮できるか心配です。思わずYOSHIKIはどこに立っているのかと目がうろうろしそうです。

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