日本が「大国」か「小国」に悩む前に、目の前の変革に挑みましょう

 朝日新聞の多事奏論で「今こそ小日本主義 閉塞する政治、湛山なら?」を思わず読んじゃいました。「小日本」と「石橋湛山」のキーワードに吸い寄せられました。さすが朝日です、記事の見出しが巧みです。

「小日本」「石橋湛山」に吸い寄せられる

 記事は閉塞する政治の視点から切り込んでいますが、日本は政治どころか経済も閉塞中。「石橋湛山なら、どういうシナリオを捻り出すのだろう」という素朴な疑問と合わせて再読してみました。記事の内容はアドレスを掲載しましたので、そちらから参照ください。

記事はこちらから(注;一部有料です)     https://digital.asahi.com/articles/DA3S15725690.html

 簡潔に要約すると、立憲民主党の衆議院議員・篠原孝さんは農水省課長補佐時代、戦前に石橋湛山が唱えた「小日本主義」を改めて今、問い直したいと考え、超党派の議員連盟を発足させたそうです。小日本主義とは、石橋湛山が主幹を務めた「東洋経済新報」が主張していた考えで、当時の軍国主義を柱にした植民地拡大政策よりも資本や産業の強化に力を入れて自由な通商国家として繁栄しようと唱えていました。

 今回、改めて提唱する篠原さんは大国をめざして政治力拡大や経済成長に精力を消耗するよりも、大国主義を捨て共存共栄の精神を重視する社会へ変貌すべきだと説いているそうです。日本は資源が乏しく、少子高齢化、大都市の人口集中と地方の過疎化などに直面しています。欧米やアジアなど世界の多くの国がこれから経験する課題を先取りする形で、日本はその課題解決に取り組み、資源の有効活用や地球環境に対する新しい道筋を示す好機になるのだ、と考えているようです。そういえば、2000年代、東京大学元総長の小宮山宏さんが提唱した「課題先進国」も似た問題認識のような気がします。

世界の課題を先駆けて直面する日本の道筋を探る

 篠原さんが「小日本主義」に共感を覚えた頃は1980年代半ば。日本経済が米国の背中に手が届くと信じ、爆進中でした。数年後にはバブル経済に突入します。世界第2位の経済大国として肩で風を切っている時代でした。「小日本」がなかなか受け入れらなかったのも頷けます。現実は大いなる勘違い。バブル経済が弾けた後は、あれよあれよと勢いを失い、政治も経済も肩で息しているのが現状です。

 もっとも、勘違いはまだ続いている気がします。岸田首相はじめ自民党が主導する政策や予算編成を見ていると、発想は確かに昭和の延長線上。日本がまだ世界第2位の経済大国の名残り、言い換えれば中国に第2位の座を抜かれたとはいえ、まだまだ捨てたもんじゃない、政治にも経済にも力はあるという意識と誇りを捨てきれていません。だからこそ、身の丈に合った政策を実行するためにも、自らの国力を再確認し、これから社会の活性化を取り戻そう。こう主張するのは、まさにその通り。

 ただ、違和感はあります。日本が取り組むべき課題は、日本が「大国」あるいは「小国」、かつては「普通の国」と唱えた政治家もいましたが、国そのものの「器の大きさ」が前提となる以前のレベルです。国力の大きさを冷静に見つめたら、実質的に単純再生産、あるいは縮小均衡しているのです。大国どころか小国へまっしぐらです。

 しかし、国力、例えば経済成長の推移などを考える指標にするのはやめましょう。「大日本」「小日本」という国力論がスタートでは、再び議論が迷路に入り込んでしまいます。真剣に直視すべきことは、目の前の課題を解決する勇気を持つことです。なぜなら、やるべきことはもう十分にわかっているのですから。

大国意識を捨て、実行する勇気を手に

 輸入依存の石油・ガスなどの資源小国、国内は大都市圏と地方の格差、自民党・その他の野党の政治体制、戦略が見えない外交政策、手も脚も出ない日銀の金融政策、朽ちるだけの製造業・・・・。指摘し始めたら止まりません。いずれの課題も1990年代から指摘されているものばかりです。

 世界から取り残されているにもかかわらず、解決の引き延ばし、決断できない政権、変革できない企業経営・・・・・こちらも止まりません。

 小日本主義という言葉には、自らは大国であるという意識が裏で控えています。もう「大」も「小」も捨てましょう。日本の政治・経済は深刻な状況です。少なくとも経済は、目先の数字を追いかけるのに精一杯。未来を語る余力はどのくらい残っているのでしょうか。

 かつて北海道には愛国駅から出発して幸福駅に到着する列車が走っていました。国内外から多くの観光客を集める人気スポットでしたが、その路線は廃止されています。今は駅の目の前には石碑が立っています。幸福と文字が刻まれた記念碑を前に立つと、そりゃ寂しいですよ。日本はかつて「幸福だった」なんて、想像もしたくありません。

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