日本の半導体は錆びついたのか

日本の半導体は、コロナ・ワクチンの教訓に学んで、「なぜ次代を先導できないのか」

日本の産業政策には成功体験の思い出しか残っていないのかな〜。どうして失敗を教訓にしないのでしょうか?失敗は成功の基(もと)ということわざがあるじゃないですか。ぜひ失敗体験をもう一度、反芻して一緒に反省しましょう。このままでは新型コロナワクチンで遅れをとった開発競争を再び目の当たりにすることになります。

政府は2021年6月18日、経済財政運営と改革の基本方針2021と成長戦略を閣議決定しました。デジタル化や脱炭素など4分野に重点を置きますが、半導体を戦略物資と位置づけ、サプライチェーン(供給網)の強化に集中投資するそうです。成長戦略では経済安全保障の観点から先端半導体の開発・製造拠点を国内に誘致する目標に、日本のメーカーと米国・台湾の連携を加速させます。

もうデジャヴ(既視感)ですね。私は1990年代、日本の半導体メーカーが世界シェアの5割以上を握る最強の時代に電機業界を担当していました。以来、まさに頂点から奈落へ落ち込み、復活に向けての試行錯誤をいくつも目にしました。例えば19年前の2002年、経産省がまとめた半導体産業に関する報告書があります。国際競争力の復活を目指すため、企業連携などで効率化、標準化を呼びかけて生産コストの削減を目指しました。国内11社が出資した「先端SoC基盤技術開発」、研究開発のプロジェクトの統合などもありましたが、結果として思ったような成果が上がりませんでした。背景には激しい日米半導体貿易摩擦がありました。輸出競争力そのものが否定されるような政治的な圧力が高まったほか、円高に加えウオン安など韓国の国と民間が一体となった半導体産業の育成と攻勢を受けます。日本の半導体メーカーは国内からも悪役と見られ、気の毒でした。結果、文字通り萎えてしまいました。最後の切り札的な存在であったエルピーダは2012年に会社更生法を申請しました。当時の坂本幸雄社長は「入社時は倉庫番、そこから社長になったんだ」と冗談めかしで話すほど他の日本メーカーにいない異色の経営者でしたが、会社更生法を申請する寸前まで「日本の技術力は世界でトップクラス。しかし、日本の生産技術をまね、日本技術者をスカウトする韓国勢に勝つためには知的財産権の保護強化が必要」と日本政府へ訴えるとともに、「サムスンに勝つためのお金がない」と苦渋の表情で語っていました。

三菱電機、日立製作所、NECの半導体部門が統合して2010年に誕生したルネサス・エレクトロニクスの経営は右往左往するばかりで、とても半導体の未来を託す会社として期待できません。「産業のコメ」と言われ続けていましたが、現在は自動車のコンピューター化の加速が半導体の需要を押し上げています。以前から多くの人間が予測してきたことです。しかし、これまで日本の産業政策で半導体の復活にどのくらい知恵とカネを注いできたのでしょうか。この20年間という長い歳月がただ過ぎ去ったとしか言えません。ここにきて経済安保の言葉で半導体を持ち上げても、ルネサス1社も再建できない産業政策では期待できません。画竜点睛を欠くとはこのことか、です。

「日の丸」と名の付いたプロジェクトは成功例が少ない。それもあって日本という名称が付いた会社の成長力は期待できないというジョークが飛び交ったほどです。直近で探しても三菱重工の国産飛行機プロジェクトがあります。新型コロナのワクチン開発競争で日本は完全に出遅れました。巨額投資が必要な医薬品メーカーの研究開発競争から完全に取り残されていた現状を見れば元々無理な相談と思いますが、新薬の開発は半導体に勝るとも劣らない有力分野の一つでした。ワクチンの開発競争にトップに立ったファイザーはドイツのベンチャーであるビオンテックと組んでmRNAからの生成に成功しました。創業者はトルコ系移民出身者です。経済の安全保障という観点からも半導体の重要性がスポットライトを浴びていますが、舞台に立つ日本の半導体メーカーはもうヘトヘト、疲弊しています。日本の企業の再生を目指すためにはどのような産業政策が必要だったのか、そして新しい研究開発力を生み出す源泉を生み出すためにはしなければいけないのか、一緒に考えましょう。

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