「あのギリシャ」が果敢な変革でOECDトップの経済指標 「ヘラクレスの勇気」を学ぶ
ギリシャが「あのギリシャ」から「日本が模範とするギリシャ」に様変わりしています。2010年代、破綻寸前まで追い込まれた後、欧州連合(EU)が金融支援と引き換えに求めた大胆な緊縮策を受け入れ、国の改革に挑みました。年金は最大40%カット、溢れるほど抱えていた公務員を大幅に削減するなど文字通り、激痛が伴う改革でした。この結果、現在はOECD(経済開発協力機構)の加盟国の中でもインフレ、株価、雇用、GDPなど経済指標でトップの成績を上げる国に変身しました。勤勉な国民で知られるドイツから「怠け者」には支援したくないとまで悪評されたギリシャの姿はもう見当たりません。むしろ、ドイツは改革を怠けていると批判されています。翻って日本。巨額の債務を抱え、経済改革は遅々として進まない。このまま日本はドイツで並んで「あのギリシャ」になってしまいそう。
コロナ禍後、経済パフォーマンスは右上がり
ギリシャはコロナ禍の収束後、設備投資、輸出、さらに基幹産業である観光が息を吹き返し、それぞれの歯車がうまく噛み合う好循環が始まっています。2022年後半から経済成長率は、EU全体を上回る伸び率を達成する一方、物価上昇は3%台に止まり、雇用など主要経済指標は改善しています。とりわけ株価は4割以上も上昇し、景気の先行きに自信が戻っています。
2023年4月にIMF(国際通貨基金)からの融資201億ユーロを完済したことを発表しています。2010年にギリシャが債務危機で破綻寸前の時、IMFは201億ユーロ、欧州各国は529億ユーロを最初の金融支援として融資しました。ギリシャ政府はすでに2022年から債務を繰上げ返済する意向を示しており、IMFに関する債務が完了したことは、ギリシャ政府が進める経済改革に対する信頼を深める証拠になっています。しかも、完済によって債務の利払いも消えるため、国家財政にも余裕が生まれ、より積極的な政策展開が可能になります。ドイツなどがインフレ信仰と経済停滞が併存するスタグフレーションに悩んでいるユーロ圏と比べ対照的です。
改革の切り札はデジタル革命
経済改革の切り札はデジタル革命でした。ギリシャはデジタルに関してEUの中で最下位の評価を受けていました。しかし、債務危機とコロナ禍と二重の危機を乗り越えるため、国全体のデジタル化、いわゆるデジタルトランスフォーメーションに投資を集中します。プロジェクトは「デジタル・トランスフォーメーション・バイブル」。バイブルと名付けた以上、誰も無視できませんし、変更できません。
2020年から2025年までの5年間計画で、光ファイバーの整備、サイバーセキュリティ、社会生活に欠かせないデジタル技術の教育など事業数は400を数えるそうです。必要な資金はEUが復興資金として支給する320億ユーロのうち20%に相当する60億ユーロを投入します。ギリシャの国家予算の歳出規模の10%程度で、円で換算すると9360億円です。日本と比べると、金額ベースで物足りないと感じるかもしれませんが、経済破綻寸前のゼロからスタートし、国家をデジタルで再構築し、挑戦する勇気に関しては日本を優っているのではないでしょうか。
その勇気はギリシャ神話に登場する「ヘラクスレス」と重なります。ヘラクレスは敢えて苦難の道を選ぶ神とされていますが、ギリシャは銀行の不良債権削減プログラムを「ヘラクレス」と名付けました。国が保証を与えて不良債権を証券化し、銀行のバランスシートから削除する仕組みです。証券会社は銀行から不良債権を買い取り、国の保証を加えて投資家へ債券を販売する流れになります。投資家が負うリスクを減らす一方で、債券の売買が広がれば国も債券売買から利益を得る一石二鳥の不良削減策です。2019年10月から限定措置としてスタートし、その後延長が繰り返され、現在は2024年12月まで有効です。
「ヘラクレスの勇気」を学ぶ
EUから金融支援を受けているギリシャですから、ヘラクレスの延長など運用は全て欧州委員会の承認が必要です。国としては”屈辱的”です。しかし、韓国も1997年の通貨危機でIMFから緊急融資で切り抜け、結果としてこの試練が韓国経済の改革を促し、現在の韓国経済に再生したと言われています。
日本は幸いにも国家管理を受ける経済状況ではありません。しかし、ギリシャや韓国のように危機管理されなければ経済改革できないという意見も出始めています。「ギリシャに学べ」と説くと「東京都の予算よりも小さい国と一緒にするな」との声が必ず出てきますから、「あのギリシャに出来て、日本に出来ないはずがない」と説得すれば納得するでしょうか。弁法などどうでも良いのですが、一つ欠かせないことがあります。どんな挑戦にも恐れないヘラクレスの勇気を学ぶことです。日本が最も欠けているのは、変革する勇気ですから。