人口減で地方消滅 政治、社会、経済、日本の「掟」が崩れ、その後は・・・

 投票率が90%を超えるのは当たり前。ちょっと信じられない数字ですが、1980年代の石川県のある町村では常識、というか「100%を達成するのが目標」でした。その町の住民は「投票に行かなければ、日常生活ができなくなる」と明かしてくれました。たとえ寝たきりでも担架に載せられ、投票所へ運ばれて投票する高齢者がいたほどです。

投票率はいつも90%台

 「地方は・・・」と訳知り顔に語る気持ちも資格もありません。青森県で生まれ、北海道で育ち、高校まで津軽海峡や三陸地方で育った地方出身者ですが、本当の地方を知ったのは20歳代の頃に新聞記者として赴任した石川県で暮らした3年間。前田利家入城以来、400年以上も板前さんら職人が住む町で暮らし、町内会や社会の「しきたり」の大事さを教えてもらいました。

 大事なことは直接、話してはいけないし、公の場で議論してはいけない。人を介して伝える「根回し」の奥義を教えてもらいました。もっとも、その奥義も頭でわかっても実践は今もできていませんが・・・。

 投票率が限りなく100%に近い町の一例として根上町はどうでしょうか。首相、東京五輪、ラグビーW杯など大イベントの重鎮を務めた森喜朗元首相の地元です。お父様は森茂喜さん。1953年に根上町の町長に無投票で当選して以来、1985年まで9期連続無投票で当選しました。自治体の首長の最多記録です。1989年に体調不良を理由に辞任するまで、36年間も無風状態。同時期の石川県知事は中西陽一氏で、1963年から8期連続当選し、31年間も知事を務めていましたが、京都出身を理由に「いつまで経っても、よそ者だ」が口癖でした。

その土地で暮らすなら掟に従う

 石川県の地元の結束力は全国でも抜きん出ていました。それでも森茂喜さんは長男の喜朗さんを政治家に育てるため、その道筋を描きます。まずは早稲田大学のラグビー部とコネクションを構築し、その後は政治家への必須の一つ、新聞記者の肩書きも手配します。お父様の森茂喜さんは9期連続無投票で町長選を制した実力者です。優れた首長でしたから、町民はその評価と忠義も含めて投票で答えますが、長男だからといって簡単に当選するわけにはいきません。刻苦精励する姿勢を演出します。根上町はもちろん、当該選挙区の住民が投票しないという選択肢が無いわけではありませんが、その町で住み続けるなら投票しなければいけない「掟」でした。

 根上町は「地方の掟」の一例に過ぎません。石川県に限らず、全国各地で同じ掟が繰り返されていました。しかし、その「地方」が消えるのは確実です。その時、日本の政治、経済、社会はどう変貌しているのでしょうか?

2100年の人口は6000万人?

 なぜ地方が消滅してしまうのか。国立社会保障・人口問題研究所が2023年4月に示した将来推計人口によると、2100年の人口は6000万人。20年の1億2615万人から半減します。高齢化率は40%。東京や大阪など大都市圏に人々が集まっていますから、当然の結果として地方はスカスカ。人口は半減以下に縮小します。どんな社会が創出されているのか想像できますか。 

 2024年1月9日、人口戦略会議の議長を務める三村明夫・日本製鉄名誉会長は岸田首相へ「人口ビジョン2100」を提出しました。4つのシナリオを示しましたが、実現を目指すシナリオとして人口8000万人、高齢化率30%に抑えれば、日本の未来の可能性を担保できるとの内容です。出生率を2040年までに1・6%。50年までに1・8まで引き上げる。現在が1・26ですから。正直いってかなり高いハードルです。日本の政府が1990年代から地方創生と言いながら、結局は地方が衰退する現状を放任してきた結果ですから、受け止めるしかありません。  

 人口戦略会議の副議長を務める増田寛也さんは早くから地方消滅に関して警鐘を鳴らし続けています。現在、日本郵政社長ですが、建設省を経て岩手県知事、総務相など多数の要職を経験しています。2010年代、増田さんと何度もお酒を飲みながら人口減と地方消滅を議論した経験があります。今も頭の半分は日本の地方の未来について考えているとしか思えません。実際、2014年には民間有識者からなる「日本創成会議」の座長として「消滅可能性都市」を公表し、人口減少に歯止めをかけるよう提言しています。

地方の消滅は日本の骨格の消滅

 地方の未来を嘆くつもりはありません。新たな未来を切り開く可能性はあります。ただ、人口半減の未来を打破するためには、相当思い切った発想の転換が必要です。結婚・出産できる社会の実現に向けて若年層の所得向上や非正規雇用の正規化といった雇用改善、国内に永住・定住する外国人との共生。さらにフランスのように婚姻関係を問わず子育てできる社会に移行できるか。目先の労働者不足を補うだけでなく、優秀な技術を持つ個性的な人材を受け入れる移民政策への転換もあるでしょう。日本はすでに経済協力開発機構(OECD)で最多の年間48万人に上るそうです。検討課題は数多くありますが、早急な実行力も問われます。

東京や大阪だけで日本は支えられない

 日本の人口減対策、言い換えれば少子化対策は後手後手に回り、手遅れの印象です。担架に載せられてでも投票する風景はすでに過去の遺物ですが、若者のみならず高齢者も消えれば地方そのものが消滅。そうなれば政治、経済を支える日本の骨格は失われます。

 地方消滅という事実を過小評価して、東京、大阪、名古屋、福岡、札幌など中軸となる大都市だけで日本が繁栄すると単純に考えるのは早計です。あと10年過ぎれば、地方消滅が明確に影響となって現れてきます。目の前に広がる風景が想像できますか。

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