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「科博・10兆円・論文13位」衰退する科学研究 朽ちる文科省 狸小路の、いや袋小路の日本

  札幌市の狸小路を歩き回ったことがありますか。明治から市民が買い物や食事を楽しむ古い商店街です。約1キロの細長いアーケードの下を西に向かうとおいしいジンギスカンやラーメン、ドラッグストアなどが立ち並びます。さらに奥へ向かうと、木造のちょっと歴史を感じる昭和レトロの街並みが現れ、しゃれたレストランがあちこちに。ぶらぶらしているだけでも楽しいですよ。名前の由来は諸説ありますが、狸に化かされたかのような驚きや笑いが商店街にあちこちに隠されているからと理解しています。

文科行政は札幌・狸小路に迷い込んだよう

 最近、公表された日本の科学研究に関する話題をみていると、狸小路を歩いている気持ちになります。本来なら悲しむべき事柄なのに驚き、笑うしかない時があるからです。

 まず国立研究開発法人の科学技術振興機構。政府は大学研究を世界トップクラスに引き上げるため、資産規模10兆円の「大学ファンド」を設立し、同機構が運用しています。7月に公表した初年度2022年度の実績は、なんと604億円の赤字。運用成績はマイナス0・6%。損益計算書上の当期利益は742億円ですが、23年3月時点の含み損が1259億円にも膨らみました。

 運用実績をみると、資産の比率はグローバル債券が55%、グローバル株式が17%。運用初年度なので、財政基盤の安定性を優先してリスクの高い資産の比率を低く抑えたと説明していますが、結果は赤字。世界経済は1年以上も前から欧米の金利が上昇する一方、世界の株式市場も好調に推移しています。10兆円も運用しているのですから、専門家と相談しながらリスク分散すれば利益は着実に上がるはずですが、結果は赤字。リスクが低い資産設定をどう読んだのか。わざわざリスクを無視して選んだ結果としか思えません。

10兆円運用して600億円超の赤字

 運用益は国が支援する「国際卓越研究大学」に助成します。現在は応募10校のうち東京大、京都大、東北大の3校に絞られ、今秋に1校か2校を選定するそうですが、助成金の額は10兆円ファンドの”儲け”が尺度。文部科学省は「運用益が出なければ支援が難しくなる」と説明しています。最初の1歩目から国際卓越研究大学は躓くんですか。10兆円ファンドの運用は素人と揶揄する声も出ていますが、嫌みじゃなく運用にまず卓越した慧眼がなければ、日本の大学研究の底上げなどは雲散霧消します。

 なにしろ日本の自然科学分野の論文は世界的に見ても深刻な状況です。最新の調査結果をみると、注目度の高い論文数で世界第1位は中国、第2位が米国、第3位が英国と続き、日本は前回の12位から1つ下げて13位に。記録が残る1981年以降では最低の順位です。対象は2019年から3年間に発表された自然科学分野の論文で、注目度は他の論文に引用された回数がそれぞれの研究分野で上位10%に入ったもので測ります。

ポスドク解決せず世界レベルから奈落へ

 この調査を担当した科学技術・学術政策研究所は「研究時間の確保が難しいことや、博士課程への進学率の長期的な減少傾向などが、日本が順位を下げた要因だと考えられる」と分析しています。同研究所は文科省直轄の組織です。日本で博士号を取得する学生が減っているのは、取得後の処遇や勤務が不安定なためです。「ポスドク問題」と呼ばれ、博士号を取得しても「飯が食えない」と嘆く学生が多く、昔からポスドクの処遇改善が求められていました。ところが政府が解決しないため、日本の研究レベルは世界の下位グループに低下しているのです。文科省は他人事のように解説している立場じゃありません。

 最も驚いたのが国立科学博物館のクラウドファンディング。科学博物館は動植物や化石など国内外のさまざまな標本を収集し、国内最大規模のコレクションを保有しています。8月7日、光熱費の高騰などでコレクションの管理が資金不足で危機的状況に直面しているため、クラウドファンディングで1億円の資金を募ると発表しました。なんと1日余りで2万人以上が支援し、3億円以上が集まったそうです。

科博は1億円のクラウドファンディング

 とても重要なコレクションが守られたのは素晴らしいことです。クラウドファンディングの活用はさまざまな用途で活用されており、私も参加した経験があります。しかし、国立の機関がクラウドファンディングすることを素直に受け止められません。まずは文科省なり政府が知恵を絞るのが筋です。科学博物館は文科省が対応してくれないのでクラウドファンディングを選択したのでしょうが、これが罷り通るなら国は予算が不足したら国民に対しクラウドファンディングを通じて資金を集めれば良いのでしょうか。

 なんとも奇妙な構図です。素人同然の国の機関が10兆円ファンドを運用して600億円を超える赤字を出す一方、科学博物館は1億円が足りないからと国民から資金を集める。国民はすでに納税しています。税金を払ったうえでさらに上乗せで資金を提供して国が困ったことを解決する手段が当たり前になったら、霞ヶ関に集まる政府の官僚機構は不要になりますね。国の施策はクラウドファンディングで予算化しましょう。そうすれば、最も透明性が高く、多くの国民の理解も得られます。

霞ヶ関の惨状が目に

 マイナンバーカードはじめ霞ヶ関の最近の惨状を改めて振り返ると、日本の大学、科学研究が世界で下位グループへずるずると落ちていく現実は十分に理解できます。暗い気持ちを払うためには、やはり札幌市の狸小路に向かっておいしいジンギスカンと「サッポロクラシック」ビールを飲むしかないようです。

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