軽EVは日本を救うか③ 世界の交通体系の分岐が始まる 近距離はEV、遠距離は新幹線

 電気自動車(EV)はまだ進化の途上。気候変動への対応を追い風に欧米アジアで普及は加速しているものの、 ガソリン・ディゼール車に代わって自動車のど真ん中に座るまでにはいくつものハードルが待ち構えています。その高い障壁を乗り越える移行過程を通じて既存の交通体系も大きく変革するに違いありません。「地球の歩き方」ならぬ「地球の移動の仕方」はカーボンニュートラルが実践されるなか、長距離は電車など公共交通、近距離はEVへ2極化するのではないでしょうか。とりわけEVは小型、あるいは超小型が重宝されるはずです。軽EVが脱炭素を浮揚力に世界市場へ飛翔する、そんな予感がします。

脱炭素が浮揚力に

 EVの目の前に立ちはだかるのがバッテリー。現時点の能力を前提に考えると、ガソリン車に比べ1回の充電による走行距離が短く、充電設備・時間が実用段階に達していません。バッテリーの性能は今後、技術開発により克服される見通しですが、より根深い問題はバッテリーとして利用するリチウムイオン電池の素材にリチウム、コバルト、ニッケルなどレアメタルが必要なことです。

 レアメタルの産地は中国、東南アジア、アフリカ、中南米などで、主力産地は政治リスクが大きい国に偏っています。貴重な資源を意味するレアメタルと呼ばれるぐらいですから、もともと手に入りにくいうえ、禁輸や生産調整など政治的な取引材料に利用される恐れは否定できず、生産コスト、輸入コストが高騰する可能性があります。

電池素材のレアメタルは不安材料が多い

 バッテリーのコストはEVの車両価格の3割以上も占めるといわれます。レアメタルを使わないバッテリー開発も進んでいますが、レアメタルの調達不安でEVそのものの生産計画や価格が大きく変動するリスクを見逃すわけにはいきません。

 まだあります。EVのエネルギー源である電気を供給する能力も気がかりです。EVが世界で最も普及しているノルウェーは新車販売の8割も占めていますが、電気の供給源は水力発電がほとんど。山脈と川が連なる豊富な自然に恵まれているため、日本のような大規模なダムだけでなく中小の水力発電システムが全国にあります。同じ自然の太陽光や風力を利用する再生可能エネルギーと違って、水力は天候に大きく左右されないため、EV充電に必要な大容量電力を供給できる稀な国です。

電力供給がさらに制約する

 しかし、ノルウエーのような国はそう見当たりません。欧州をみても、原子力を国策とするフランスを除けば、ドイツなど欧州の多くは太陽光と風力に依存しています。米国は、サウジアラビアと並ぶ石油・ガスの資源大国です。日本は言わずと知れた資源小国。ほとんどを輸入に頼っており、なんとか自前のエネルギーを取り戻すため、原発政策を推進へ大転換したばかりです。中国やインドはカーボンニュートラルを声高に宣言しながらも、石炭火力にまだ依存しており、CO2の排出量は世界の1位、2位を争っています。

 EVは普及期に入ったばかりですから、充電などで大きな問題が目立っていません。しかし、自動車保有の過半を超えると、電力の必要量は飛躍的に増えるうえ、充電時間を短縮する急速充電は短期的に大容量の電力が要求するため、需給以上の発電余力が必要で、現在の電力インフラでは間に合いません。原発も含めて発電所の新増設を進め、現在よりも電力の総発電量を大幅に拡大する必要があります。

発電所の新増設がかなり必要

 国全体の電力需給を考慮すれば、EVがガソリン・ディーゼル車に置き換わることは考えられません。カーボンニュートラルを念頭に置けば、どの国も化石燃料を使った発電所を新増設できるわけがありません。限られた電力を効率良く利用するためには、「移動の常識」を捨てる時期がかならず訪れます。すでに欧州では航空機のエンジンが大量に排出するCO2を削減するため、2時間以内の航空機移動を禁止する動きも出ています。

 太平洋や大西洋を超える超長距離移動は飛行機に頼らざるを得ませんが、長距離でも陸上交通なら電車など公共交通機関を利用する動きが広まるでしょう。そして、電車を使うほどではない近距離はEVが請け負う。

長距離移動の主役に新幹線が浮上?!

 20世紀の移動機関は蒸気機関車から始まり、自動車、船舶、航空機などと進化していきました。しかし、カーボンニュートラル実現をめざす21世紀後半は、それぞれ競う時代が終わり、エネルギーを最も効率良く使用する観点から役割分担されるのです。長距離は飛行機や電車、船舶に、近距離はEV。明確に仕切られる時代に移るのではないでしょうかEVのテスラで大成功を収めたイーロン・マスクが挑戦し、失敗に終わった高速チューブのような長距離移動機関は、まさに時代を先取りした発想でした。さすがです。

 カーボンニュートラル実現に四苦八苦している日本にとって一転、明るい未来が広がります。長距離交通の主力になる電車は日本が世界でも強い競争力を持つ産業です。新幹線は高速性能、安全性などどれをとっても、ずば抜けています。リニアモーターも本来は電力消費を抑える省エネといわれましたが、現実はどうも違うようです。世界から中奥を集めるのは新幹線です。

軽のノウハウと経験がEVの世界標準に

 EVは近距離移動のかなめとして使い勝手が重視されます。旅行などロングドライブや、大型トラックやトレーナーなどを使っていた大型物流は公共機関にかなり移行するでしょうから、EVが活躍する場は通勤、買い物など日常生活が主力舞台になります。そうなると小型車で十分。しかも、走行距離、身軽さなどを考えれば、軽EVで培ったノウハウと経験が存分に活きます。それは日本に限った話ではありません。

 車体の大きさに違いがあれど、使い勝手の良さがEVの世界標準になります。そうです、世界標準に最も近いのは日本の軽です。

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