27年前の軍事演習が蘇る 3  兵士の子守唄は貨物機エンジンの大爆音

 大爆音。この言葉以外、浮かびませんでした。

  目の前にオーストラリア軍の貨物機C-130がズラリと並び、すでにプロペラが回転していました。次に取材する演習地は1000キロ程度の遠方。軍事演習に参加する記者たちに貨物機による移動を体験させようという目的もあって、C-130の機内に搭乗して数時間ほど飛行する予定です。

輸送機のすぐそばで兵士の寝袋の列がヤマのように

 広報官に引率されて貨物機後方の搭乗口に向います。プラペラの爆音がどんどん大きくなり、プロペラに巻き込まれたら木っ端微塵になってしまいますから大丈夫とわかっていますが神経をピリピリと尖らします。貨物機近くに迫って、我が目を疑いました。遠目には航空機で輸送する貨物の山かと思い込んでいた大きなカバーは兵士たちが潜り込んで眠っている寝袋のヤマでした。

 兵士たちは熟睡しているようです。冒頭に書きましたが、大爆音が響き渡っています。適度な距離があるとはいえ、貨物機のそばです。広報官に聞こうと思っても大爆音で話できません。後で確認したら昼夜寝ずに演習地を移動しており、休憩中だったそうです。現場は隣同士でも話ができないほど。この騒音の中で熟睡。演習中の兵士の疲労はピークを超え、プロペラの爆音は子守唄にしか聞こえないでしょうか。

 実際、装甲車や兵士らが夜間を通して演習を繰り返して移動する様を見ると、鬼気迫るオーラを感じます。仮想敵国との戦いを前提にしているとはいえ、生死をかける緊張感を強いられます。一瞬でも緊張感を解かれたなか、泥のように横たわっていた兵士たちの寝袋のヤマは目に強烈に焼き付きました。

 C-130の機内に入ります。丸い空間を仕切る壁側に背を向けて横並びに座っていきます。旅客機の座席のような快適さはもともと期待はしていませんでしたが、思ったり雑でほぼ荷物と同じ扱いです。6点シートのようなベルトで体を固定するので、安心はするのですが、きっと飛行中の大きな揺れに備えてですから逆に恐怖の予感も浮かびます。

C-130を飛行体験

 離陸後はこれまた当然ですが、機内は騒音が充満します。旅客機と違ってオーディオや映画を楽しむことはできませんから、結局は寝るしかない。こんな騒音の中、寝られるのかと思ったのですが飛行中の揺れや爆音で緊張しているせいか、気付いたら眠っています。そして眠っても眠っても着陸する雰囲気が感じられず、いつまでも飛んでいるんだろうと不安を覚えます。それでも体はベルトで縛られているので、自分の意思でできることは寝るだけです。C-130はよく眠れる貨物機。そんな思い出です。

 空軍基地で音速で飛行する戦闘機を操縦するパイロットに話を聞く機会がありました。オーストラリア空軍のトップガンです。戦闘機の操縦席近くで気軽に、しかも素朴な質問にていねいに答えてくれました。「音速でどのくらい飛行するのですか」「1時間ですね」。思ったより短い。理由をたずねたら「音速で飛行するには体力も精神もかなり消耗します。2時間はとても難しい。たいへんですよ」。空軍でもエリートであるパイロットは、自らの限界を率直に明るく答えてくれました。意外でした。

 オーストラリアは南半球に位置し、広大な大陸を国土としています。あってはならないことですが、万が一紛争や軍事衝突が起こるとしたら、その地域は南シナ海など赤道よりも北になる可能性が高いでしょう。1時間以内の航空圏内ならオーストラリアの空軍が音速で戦闘する確率はかなり低いはずです。しかし、可能性がゼロでない限り、陸海軍は一体で機能する演習を繰り返します。あのパイロットの明るさは、オーストラリアの軍隊は実戦とはほど遠い存在から生まれるモノなのかと思っていました。

世界各地で実戦経験を重ねるオーストラリア軍

 そんな浅はかな感想はすぐに見破られます。あるキャンプの夜、オーストラリア軍の将校が世界各地で起こっている紛争や軍事衝突で実戦経験を重ね、南シナ海や台湾での軍事衝突に備えていることを教えてくれました。「私たちは世界でも最も実戦を知っている軍隊のひとつ。今の日本の自衛隊にはないモノだ」と。

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