宇宙を眺めて地球を知る Mahalo マウナケア③漆黒の闇と星の光 もう一つの地球を見る

 サンセットは豪勢な赤と白と輝きをすべて地平線に吸い込み、残った私たちは漆黒の闇に包まれました。感動の余韻がまだ漂っています。しかし、浸っている余裕はありませんでした。

サンセット後は漆黒の闇が

 漆黒の闇の訪れは、周囲の天文台13基すべてが目指す天体に向かい観測を始める時の始まりです。観光客は天体観測の邪魔になってはいけないため、できるだけ早くマウナケア山頂から退去しなければいけないのです。ツアーガイドの指示に従い、四輪駆動車に乗り込みます。次は中腹のオニヅカ・ビジターセンターにまで戻り、そこで星空の案内や天体観測を体感することになります。

 センターの冠にあるオニヅカはハワイ島コナ出身で日系人で初めて宇宙飛行士になったエリソン・オニヅカさんのお名前が由来です。とても残念なことに1986年にスペースシャトル「チャレンジャー」の空中爆発でお亡くなられました。コナの空港も「エリソン・オニヅカ」と名称がついています。

オニヅカ・ビジターセンター

 山頂からビジターセンターまでの時間は30分もかからないはずです。登りが急でしたから、帰りも荒れたダートの道をかなり揺れながら降っていきます。ところが全く記憶がありません。4200メートルの高度で酸素不足に耐えていたせいか、車に乗って安心した途端、脳が一度シャットダウンしたようです。猛烈な睡魔に襲われ、熟睡。気付いたら、ビジターセンターに到着していました。もし高山病になっていたら、もっと酷な状況に襲われるのでしょう。ヒマラヤのチョモランマなど世界の最高峰をめざす登山家の体力と気力に改めて敬服します。

山中腹で星空を観測

 ビジターセンターでは、他のツアーの人々も同じように夜空を仰ぎ見に集まっています。ガイドさんは自動赤道儀装置がついた大型の反射望遠鏡を車から取り出して地面に設置し、観測準備を整えます。まず星空の見え方から説明してくれました。

 日本とハワイの緯度が違うので、北極星はじめ目標とする星や星座の位置が丸っ切り変わります。星空は北極星を回転軸のように時間の経過ととも目に見える風景が変化するとはいえ、日本ならオリオン座はあの辺にあるという感覚で眺めますが、それが予想以上に大違い。ガイドさんに「オリオン座はどこにあるのですか」と聞いたら、「今は地平線に下に隠れています」との答えでした。

山頂の天文台を紹介するパネル

分厚い銀河の中央部、天の川に感動

 なによりも感動したのは銀河でした。裸眼で分厚い銀河、いわゆる天の川を見たのは久しぶりです。天の川は銀河系の中心部で、レンズの分厚い部分に相当します。もっとわかりやすい例えなら、どら焼きの餡ですね。星の粒が精彩に見えるので、プツプツに見えます。日本の空なら金星や木星、土星など太陽系の惑星や一等星など輝きが強い天体がはっきり視界に入りますが、あとはぼんやりに映ることがほとんど。

 マウナケア山はやはり空気や周囲の環境が素晴らしい。山頂を降って中腹から観測しても、星の輝きが肌に刺さるような強さを覚えます。ガイドさんはレーザーペンを使いながら、星座や星、惑星をていねいに紹介してくれます。ニューヨークから参加した観光客には、ハワイとニューヨークの星空の違いについてクイズを交えてわかりやく説明するなどお見事です。最後は大型反射望遠鏡で観測です。土星や木星を久しぶりに鮮明に映し出し、土星の4つの惑星がはっきりと観測できたのには思わず声が出ました。

ポリネシアは自然と人が尊敬し合う

マウナケアは聖なる地

 最後になってしまいました。マウナケアは聖なる山であることを忘れてはいけません。ハワイの先住民のみなさんにとって本来なら観光客に侵入して欲しくない聖域です。オーストラリアでも先住民のアボリジニのみなさんは自らの聖地に観光客が訪れることに強く反対していました。日本でも有名なオーストラリア中央部にある「エアーズロック」も聖地のひとつです。現地では「エアーズロック」は使わず、今は「ウルル」と呼ばれています。

 マウナケア山でも、山頂に通じる道路で観光客の侵入を反対するサインなどを見かけました。自然と一体となって生活し、命を守ることは、自然に対する敬意を常に持つことです。山頂からのサンセットの美しさ、世界から集まる天文台群に目を奪われ、この素晴らしい自然をもたらす地球の力を忘れるわけにはいきません。

ガイドさんがポリネシア語で敬意の賛歌

 ツアーのガイドさんはサンセットの後、山頂を去るにあたって大いなる自然に敬意を表するため、ポリネシア語で感謝と賛歌を高らかに唱えました。力強い賛歌を聞き、一緒に敬意を示せた安堵とともに、マウナケアの頂にいる幸運を覚えた瞬間でした。

 マウナケアではたくさんの星を観測しました。あの無限の星のなかにかならず生命が宿るもう一つの地球があります。きっと、この眼で見たはずです。確信しています。

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