NHKの企業統治は金融を倣う?会長が日銀出身、経営委は野村証券出身 

 NHKの経営委員長に野村ホールディングス元社長の古賀信行氏が就任します。NHKの組織は会長が業務執行の責任者、経営委員会は会長選出や運営全般などを監督する責務を負っており、経営委員会の委員長は企業統治の最高責任者。2023年1月に会長就任した稲葉延雄氏は日銀出身。経営委員長に就任する古賀氏は野村証券出身。稲葉氏の前任はみずほ出身の前田晃伸氏。金融出身者がNHKを運営・監督し続けます。NHKは国民から受信料を徴収する公共メディア。多様な視点と経験を基に国民へ情報提供する役割ですが、期待に応えてくれるのでしょうか?

前任の会長はみずほ出身

 経営委員会の委員は12人で構成しており、国会の同意を得て首相が任命します。委員長は12人の委員がメンバーの中から選ぶ形です。古賀氏は1974年に野村証券に入社し、2003年に野村ホールディングス社長に就任。営業現場より経営企画が長く、大蔵省(現在の財務省)との交渉役を担うMOF担として手腕を発揮したそうです。NHKの経営委員会の委員長に就任すると、元MOF担が日銀出身の稲葉会長を監督する立場になってしまいます。企業統治上何も支障はないのですが、ちょっと苦笑してしまう構図です。

目先の課題は企業統治

 NHKは構造改革の過程にあります。2026年までの3年間の経営計画によると、コンテンツの総量削減と設備投資の大幅削減等を実施し、衛星放送とラジオ放送をそれぞれ1波を削減します。2026年度までの3年間、1220億円の赤字を見込んでいるため、1000億円の支出削減して収支を均衡させるそうです。

 といっても、公共メディアの基本は変わりません。経営計画では「健全な民主主義の発達に資する」と「今、日本の公共放送(メディア)NHKに何が求められているのか」を明示。放送とデジタルを使い、災害時や「平和で豊かに暮らせる社会の実現に寄与するとしています。

改革を巡って前任会長とひと悶着も

 目先の課題は企業統治。NHKは、2023年度予算で衛星放送(BS)をインターネット配信する関連支出を組み込みましたが、BSのネット配信は認められていません。放送法の遵守など企業統治の観点からNHKの組織として信用回復が急務となっています。経営計画では経営委員会が執行部と審議・検討する定期的な会議体を設置する考えを示しており、放送現場から経営判断までの過程を透明化、視聴者・国民から信頼される組織運営をめざすそうです。

 なるほど、なるほど、とすんなりうなずくわけにはいきません。国民から受信料を徴収しているのですから、国民から信頼される組織運営するのは当たり前。企業統治上、問題があると指摘されたBSネット配信関連の予算は前任の前田会長が主導したものです。会長自らガバナンスに触れる行為を誰も止められなかった組織の問題をどう解決するのかは見えていません。

 しかも、前田会長はトップを務めたみずほホールディングの経営手法と発想をNHKに持ち込み、人事・組織を断行しました。それが結局はNHK内の混乱を拡大し、放送現場や中間管理職、経営陣の間でコミュニケーションの混乱が起こったのです。おまけがあります。稲葉会長が新しい経営計画で作成した改革に対し、前任の前田会長の改革を否定する内容となっているため、前田氏は新聞や雑誌などを通じて「えん罪だ」と主張するみっともない論争にまで発展しています。

多様な視点で議論し、改革を

 外野席からみると、日銀、みずほなど金融出身者の「コップの中の嵐」に映り、面白おかしく眺めることができますが、公共メディアのNHKが混乱すれば被害を受けるのは視聴者。新たな企業統治の問題が巻き起こったりしたら、とんでもないことです。

 NHKは様々な考えを持つ国民に向かって情報を発信する役割を担っているのですから、運営や企業統治も多様な視点から議論し、決断するのが原則ではないでしょうか。にもかかわらず、会長は2期連続して銀行出身となり、経営委員会の委員長まで証券出身者が任命されるとは・・・。みなさん、出身企業にこだわる狭量では無いことは承知していますが、金融業界以外でNHKをより発展させる適切な人材はそんなに見当たらないでしょうか。

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