パタゴニアの資本主義 会社は誰のために アダム・スミスが問い続ける経済倫理

 米パタゴニアの創業者であるイヴォン・シュイナードさんが保有数する同社の株式をすべて新設する「トラスト」と地球環境保護を目的にした団体に譲渡しました。ニューヨーク・タイムズによると、パタゴニアの企業価値は30億ドルといわれ、日本円で4300億円を超えます。トラストから得られる配当利益は環境保護に投じられます。シュイナードさんは「資本主義を作り直す」(reimaging captalism)という表現を使って、今回の事業譲渡を説明しています。パタゴニアは株式上場すれば膨大な利益を得られるはずですが、その道を選ばずに自らの価値観に従って会社の未来を定める。資本主義の理論的思想を唱えたアダム・スミスは強欲に走る商人を非難し、足るを知る倫理観を求めていました。資本主義が曲がり角を迎えている今、パタゴニアは会社は誰のためにあるのかを考える良い教材になります。

地球が唯一の株主

私たちは「株式公開に進む(Going public)」のではなく、「目的に進む(Going purpose)」のです。自然から価値あるものを収奪して投資家の富に変えるのではなく、パタゴニアが生み出す富をすべての富の源を守るために使用します。

 シュイナードさんはパタゴニアのホームページで全株式の譲渡に関する考え方を説明しています。主見出しは「地球が私たちの唯一の株主」。自身が創業に至るまでの思いを語り、事業を通じて地球環境の保護に努め、「これまでのビジネスのやり方を変えることに取り組んできました。正しい行いをしながら生活に十分な資金が稼げるならば、顧客や他のビジネスにも影響を与えられるし、そうしている間にこの仕組みも変えられるだろう」と信条を語っています。

 続けて、現在の危機に向けて活動するためには、巨額の資金を得る手段を検討したそうです。

選択肢の一つはパタゴニアを売却してその売却益をすべて寄付すること。しかし、私たちの価値観や世界中で雇用されている人材を維持してくれる新たなオーナー(所有者)を見つけられるという確信はありませんでした。

もう一つの選択肢は、会社の株式を公開することでした。とんでもない失敗になったでしょう。どんなに素晴らしい志のある公開会社でも、短期的な利益を得るために長期的な活力や責任を犠牲にしなければならないという過剰なプレッシャーに晒されます。

本当のところ、優れた選択肢はなかったのです。だから自分たちで作りました。

(シュイナードさんの語りはパタゴニアのホームページで参照できます。アドレスは  https://www.patagonia.jp/home/

 シュイナードさんとパタゴニアが考案したスキームは新たに設立した「パタゴニア・パーパス・トラスト」と「ホールドファスト・コレクティブ」に株式100%を譲渡することでした。トラストが資金運用で生み出す配当金は年間1億ドルになる見通しで、環境保護活動に投入される仕組みです。

 パタゴニアは1973年に創業し、ちょうど半世紀が過ぎようとしています。日本でも大人気のアウトドア製品で、品質とデザインが優れ、地球環境保護に熱心な企業活動でもよく知られています。最近では若者が選挙で投票するよう呼び掛けています。唯一の難点は価格が高いことですが、購入した後長く使えるので結局は割安です。私自身、恥ずかしいなるくらい多くの製品を持っており、30年前に買った同じフリースを今も使っています。色はちょっと褪せましたが、零下20度のスキー場でも安心して着用しています。

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